老兵(2)
名前もわからぬAWに乗り、三人の若き兵士たちは味方を救うため戦場を駆けまわる。駆動音と足音の大きさのため完全なる奇襲とはいかないものの、真っ向から戦うのではなくヒットアンドアウェイの一撃離脱戦法をとることで、突然角から三人の乗ったつぎはぎのAWがダカダカ音をまき散らしながら現れるのは敵にとってはなかなかの衝撃のようで、一瞬反応に遅れた隙を利用して両脇のリンドとテルペヴィラで銃弾を一浴びさせすぐに離脱していくこの戦法は思いのほかうまくいっていた。
「もうすぐ多分あの通りの裏につく!そこに戦車隊がいるはずだ!そいつらを蹴散らす!」
ボルトラロールは残弾数と燃料計を気にしながら二人に伝える。元々弾薬はおおよそ残されてはいたものの、あまり燃料は満たされていなかったのであまり長くは戦えまい。特に、二人余計に載せている上に武器は過積載気味で、ほぼ常に全速力で走り続けているのだから、燃料はドバドバ消費されていく。
「隊長!前を!」
前方に何かが見えたテルペヴィラが前を見るように促すので二人は進行方向に目を向ける。すると正面の行き止まりにある建物の屋根の上からちらりとALのものらしき頭がのぞいてるのが見えた。
「大型AL?この国にそんなものあるとは聞いてないぞ!」
ゼーキ国には自前のAL自体が存在せず、ALの分はAWと強力な戦車で補おうという戦略上の考えであったため、この国の軍が有しているのは全て輸入やレンドリースものかあるいは連合軍の他の国の部隊の機であろう。後者である可能性もあったが、ボルトラロールは前者だろうという予想を立てていた。その理由はここが市街地であるという状況からであった。
ALが真価を発揮するのは戦車の通行できない不整地や木々の生い茂る森、あるいは海や空挺といった特殊な状況下であり、市街地や平地のような場所では不利となる。その理由はALが高いという点にあった。
高いと言っても値段ではなく背丈のほうで、陸上兵器において背の高さは致命的であり、横よりも圧倒的に縦の値が勝るALはそもそもただの的なのである。また、細かな敵に対応がしにくいのもあるが、それは戦車も同じである。市街地ではその細かな敵が見えないところにかつ立体的に展開してくるため、場合によってはAL一個小隊が生身の兵士に壊滅させられることだってあるのだ。
無論、それは兵士側が熟練しており入念に罠を仕掛けるなど戦いの場を整えている必要があるが、例えそれが一般的な兵士であってもALのほうが不利なことに変わりはない。AL乗りにはそれらの状況は一般常識として知られている、にも拘らずただでさえ大型タイプのALをこんな建物まみれの場所に配置しているなど、どう考えても敵はALの運用に慣れていないことになる。それゆえに、彼は他国の部隊のALではなくゼーキ軍が運用していると考えたのであった。
「どうします?」
リンドが不安げな表情でボルトラロールのほうを見つめる。ALの強みは特殊状況下での機動性だけではない。こういった心理的に影響するのも強さの一つなのであった。まさか、ALパイロットである自分が今まで自分が敵に与えてきた心理的攻撃を受けるとは思いもよらなかったであろう。
「そうだな、まず戻るぞ。そしてなけなしの罠を作り、俺たちで相手をおびき寄せ罠と戦車で一機ずつ確実に仕留める。いいな」
「わかりました」
囮なんて正直嫌でたまらないのだが、やるしかないのだろう。
ボルトラロールは一度右に操縦桿を切り元いた方へと戻り、味方の陣地が近づくころには速度を歩行速度まで落としてゆっくりと近づいた。級に現れて味方に間違えて撃たれるなど溜まったものではないからだ。戦場では誤射による死傷が多いとも聞いているし、ボルトラロールも誤射を見、受け、そしてしてきた兵士だった。そもそも、ALのような巨大兵器で味方を巻き込まないほうが無理だというものというのが彼なりのいいわけではあったが。
「撃つな―!」
リンドたちが声を上げて自分たちの接近を味方に知らせつつバザモのいた場所に戻ると、今も尚バザモは同じ場所で奮闘しており、先ほど見た時よりも若干傷ついているようには見えたが、それでもやはり重戦車の堅牢な装甲は健在で、一人の死者も出すことなく乗員を守っていた。
「おい!」
リンドが銃床で砲塔を殴ると、ハッチからベルケン曹長が拳銃片手に顔を出す。
「なんだ、生きてAWか?」
目線の先に突っ立っているAWが目に留まった彼は目を見張ってそう尋ねた。
「ああ、捨ててあるのを見つけたんだ。ところでまだALと戦車はいるか?」
何かを言いたげであった曹長は敵について尋ねられたのでその話は置いといて、今もまだ向こう側で粘っている敵についてわかる範囲で三人に伝える。
「あとALが二機はいるな。それに中型の戦車が二両。兵士はわからんがざっと二、三十はいるんじゃねえか?」
そこに、それだけじゃない、とボルトラロールが付け加える。
「六ブロックは向こうに大型ALが見えた。数はわからんな」
「んなっ!……クソッたれ!流石にもたん!」
弾も、装甲も。
「いいか、だからそいつらをやるしかない。俺がこいつで敵をおびき寄せる。だからありったけの仲間と武器を集めてこの通り周辺に罠を張るんだ。いいな?俺が真ん中の通りをこいつで突っ走る!俺につられた敵を撃てよ。間違えても俺を撃つな!いいな?」
矢継ぎ早にそう自分の作戦をベルケン曹長に伝えると、彼は戸惑いつつも頷き傍にいた兵にそのことを周囲に展開している味方に伝えるように指示し走らせた。すぐに二名の兵士が他の通りへと散っていく。残りの兵士がどれだけ生きているかはわからない。
「じゃあ……二人とも、頼むぞ」
「は?」
どういう意味だ、そう考える間もなくボルトラロールは二人を乗せないままAWを反転させ元来た方へと戻っていった。
「隊長!待ってください!」
テルペヴィラの叫びにも止まる様子はない。彼は後ろ手を振るとそのまま向こうへと走り去っていってしまった。残された二人は茫然と彼のいない通りを見つめているだけであった。
「死ぬ気なんでしょうか……」
力なく項垂れるテルペヴィラの言葉を、リンドは否定する。
「いいや……死ぬ気なんてねえよ。俺たちを信じてくれてんだ……だから俺たちで隊長を殺させないようにするんだ」
「軍曹殿……」
リンドの体は、傷つき衰えているにも関わらず未だかつてないほどに力が湧き銃を握りしめる力は強くなった。ここさえ、ここさえ乗り切れば……そんな気が根拠もなく彼の中にあった。




