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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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足踏み

 第四小隊はヴィレルラルを置いて前線へと戻る。健在なのはボルトラロール、リンド、そしてテルペヴィラのわずか三人だけとなってしまい、頼りになるジュードルは怪我を負っている始末だ。彼も戦えることには戦えたのだが、腹に傷を負っているため素早く動くことが出来ず、言ってしまえば足手まといになるためやむを得ず彼を後方の懲罰部隊の仲間に任せて彼らは三人だけで前へと進まざるを得なくなっていた。

 ホーバーネッテナー攻略戦はいよいよ終わりを迎えつつあるのだが、彼ら懲罰部隊にそんな区切りは無く、許されるまでAL無しでの戦いは続くこととなる。とはいえ、今からはしばらくの間心強い味方がいる。それは先ほど強奪したばかりのバザモ重戦車であった。あのあとベルケンの危なっかしい指示の元どうにかこうにか稼働状態のまま生き延びており、本隊には知らせず懲罰部隊の方でこっそりと運用を続けていくことにしたのだ。報告すれば奪われかねない、そうなれば懲罰部隊の死傷率は再び高い数値へと戻ってしまうだろう。たった一両の戦車に、哀れな兵士たちは心の拠り所と見ていた。

 撃破した敵戦車から燃料を抜き取って鹵獲バザモへの入れ替えが完了すると、部隊は進撃を再開した。現在この部隊の戦力は歩兵六十八名に戦車が一両、機関銃が二梃のみというあんまりなものであり、またこの日だけでも三十名が戦死し五十名が負傷していた。ボロボロの彼らは、市街地の外れをバザモを囲むように進んでいく。第四小隊の三人も集団の後方を進んでいた。ボルトラロールとしては、やはり士官である自分は前の方に出るべきであると考えていたが、少年二人を抱えている現状そうもいかず、周囲の同胞に申し訳なく思いつつ下がっていた。せめて、ジュードルだけでもいてくれれば彼に任せてもう少し前へと出られたのだろうが……いや、やはり自分はそれ以前に第四小隊の指揮官であるために、部隊を残して一人前へ出るのは間違っているはず……だ。懲罰部隊所属という状況が、ボルトラロールから自信を奪っていた。

 キャタピラとエンジン音、軍靴の石畳を叩く音、そしていずこかで鳴り続けている銃声ばかりが耳に入ってくる。市街地を抜け、住宅街へと差し掛かり始めた彼らは身の回りに遮蔽物が少なくなり始めたことに不安を覚え始め、あたりに狙撃ポイントが無いかを見渡し始める。恐らく、この随伴の重戦車を目にすれば反撃を恐れて狙撃してこないとは思われるが、戦争に絶対はない。素早く狙撃ポイントを移動することも考えられる。なにせ、ここでは相手は土地勘を持っているのだから。

 などと全員が怯えていたためだろうか、その恐れはより強い形となって顕現してしまった。

「ここでも既に戦闘が……」

 リンドは歩きながら住宅街に転がる死体や砲弾の着弾した痕に目を向ける。言うまでもないが住民たちは皆既に退避しているが、本土決戦の今、彼らはどこに逃げたというのだろうか。もう残された土地は半分と無いだろうに。

「あっ」

 そう声を上げたのはテルペヴィラで、彼は道端に落ちている死体をまさぐると手のひらに何かを握って嬉しそうに持ってきた。

「手榴弾です!どうぞ!」

 彼は三発も持ってきた手榴弾を一人一つずつリンドとボルトラロールに渡すと自分は腰の手榴弾掛けに引っ掛けた。二人は礼を言うと同じように手榴弾を引っかけたが、二人の心、特にボルトラロールに今の彼の行動がショックを与えていた。

 まだ初陣から半年もたたない、まだ学校に通っている年齢の盛りの子供が死体を何のためらいもなくまさぐって遺留品の武器をくすねてくるような行為をしてくるという事実がとても恐ろしかった。本当に彼がついこの間寒空の中夢見る宇宙の話をしてくれた彼と同一人物であるのだろうかと。戦争は無垢な少年を一瞬にして死体漁りまでさせてしまうのかと。

 住宅街へと続いた道はやがてそれぞれ枝別れしていき、部隊も数名ずつに分かれていったが、やはり大勢は一番広い道を行く重戦車に追従し続け、リンドたちの危険を少しでも減らすためにボルトラロールも恥を忍んでそのあとに続いたが、まさかこの選択の方が危険さを増すとは思いもよらなかったであろう。

(あの白いALとまた会う日は来るのだろうか)

 リンドはヴィエイナの操るグライフのことを思い浮かべていた。あの恐ろしいALは、もう本当に恐ろしい敵で、まったく、オートの機関銃すら一発も当たらないのだ。その恐怖といったらない、弾幕が自慢の重ヴァルであれなのだから、海軍の防空駆逐艦(※1)ですら落とすのは難しいのではないだろうか。もし撃墜するためには、どうすればいいのだろうか。地上に引きずりおろせばチャンスはあるかもしれないが、そんな策など思いつかないし相手がわざわざこちらの得意なフィールドに降りてきてくれるとも思いがたい。彼が導き出した最良の策は、二度と出会わないということであった。そう合点した直後のことであった、けたたましい砲撃音の直後、前を行くバザモの正面装甲に砲弾がぶつかり跳弾して後方斜め上空へと光る弾が消えたのは。

「敵だー!!」

 ボルトラロールが叫ぶと同時に、蜘蛛の子を散らすように兵士たちは家の影に飛び込み、バザモも脇道へと車体を入れると車体前部と砲身だけ突き出して待ち構えた。

「戦車ですか!?」

 ヘルメットがずれたままそう尋ねるテルペヴィラに、ボルトラロールはわからないと首を横に振る。

「その可能性は十分高いが、向こうで砲撃陣地が構築されている可能性もある。いずれにせよ回り込んで殲滅するしかないさ」

「あてずっぽうですね」

「まあな」

 茶目っ気を見せる理由は、勿論少年たちの気をやわらげてやるためであった。三人は戦車の影から敵の姿をよく目を凝らして探しているが、向こうも狙撃を恐れてか無謀に突っ込んでくるほどの愚かさは持ち合わせてはいないようだった。

「これでまだゼーキ軍ならいいが、オースノーツやジルバリティの部隊だったらまずいぞ……」

 エルベーグルグ伍長という兵士がテルペヴィラの横でそうぼやいた。ジルバリティは連合軍でも強力な陸軍を持っている国で、その力はキサナデア帝国に勝ると言われており、実際に保有師団数や戦車の数では向こうが一回りも勝っている。ゼーキ軍もこのように重戦車を持っているだけ弱くはないのだが、やはり前述の国などと比べると二線級に落ちてしまう。それほどに連合軍の戦力は分厚かった。

 リンドたちの肉眼では敵の姿は見えないが、バザモの望遠レンズからは敵影を捉えていたらしい。砲塔が僅かに動くと車長ハッチが開きベルケン曹長が砲撃をするので気を付けろと声をかけてきた。

「耳を塞げ、口を開けておけ!」

 ボルトラロールの指示通り、リンドらはそうすると直後に骨の髄まで振動させるような大爆音が彼らを襲った。重戦車のもつ大口径砲の発射音はすさまじく、指示に従っていなければどうなっていたかわかったものではなかった。衝撃でずっこけたテルペヴィラがよろめきながら立ち上がる一方で、ボルトラロールは何事もなかったかのように戦車によじ登ると砲塔をノックした。

「なんだ」

 ベルケンが頭だけ覗かせると彼は敵について尋ねる。

「敵は!戦車か?」

「そうだ!それと一瞬だがALのようなものも見えたぞ!最悪だ!」

「クソッ!」

 ボルトラロールは悪態をつくと戦車から飛び降り、町を迂回することを告げた。

「聞いての通りだ、このままじゃあまずい。とにかく敵をやるにしても正面からぶつかり合うわけにはいかない。ついて来い!」

「わかりました!」

「ハイ!」

 三人は重戦車の元を離れると脇道の先へと進んだ。味方を見捨てるわけではないが、とにかく生き残ることが先決だった。時間稼ぎでもできれば味方が戦車なりALなりを引っぱり出してきてくれるのではないかという願望を抱いて。

※1 防空駆逐艦:シェーゲンツァート帝国海軍の誇る対空装備に重点を置いた駆逐艦。主砲と魚雷は最小限にとどめ船体中にハリネズミのように対空装備を満載した艦種。主に戦艦や空母といった主力艦に随伴し、鉄の暴風雨を空に向かって撒き散らかす。

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