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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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彷徨える装甲(2)

 ゼーキ軍は始め、何故味方の戦車に撃たれたのかが理解できなかった。破壊された僚車に挟まれているバザモがいたのはわかっていたし、自分たちの方に砲が向いていたことも知っていた。だが、まさか味方めがけて撃ってくるとは思わないだろう。突如として榴弾を集団の中に撃ち込まれたゼーキ軍の歩兵部隊は一瞬にして十名が即死し、八名が重軽傷を負った。

 当然ながら攻撃を受けた彼らは混乱し、戦車が敵と誤認していると思い味方だという合図を懸命に何度も送った。しかしそんな必死の主張も虚しく更にもう一発の榴弾が潜んでいる建物の柱に命中。数名を吹き飛ばした。

 そこにきてようやくその中にいるのは味方の戦車兵ではないと気づくと、すぐさま対戦車戦へと移行した。

「やばいぞ、対戦車ロケットだ!」

 車長のベルケン曹長はモニタに映った対戦車ロケットを構えた敵兵の姿を認めると、すぐさま移動を命じた。

「動くと言っても!」

 操縦手のエルゲー伍長の抗議で、ベルケンは舌打ちをした。

「クソ!自分たちで退路塞いでんじゃねえか!」

 そう、懲罰部隊は戦車を足止めするために自ら前後の車両を先に撃破しておりそのために安全に戦車を捕縛できたが、代わりに自分たちも動けなくなっていたのだ。実にバカバカしい結末だが、かといってこのまま黙って物語の終わりを迎えるほど人生をあきらめちゃいなかった。

「来る!」

 そう叫んだ時には既に後方の建物にロケット弾頭が直撃しており、瓦礫が路面に飛び散っていた。いくら重戦車とはいえ、対戦車兵器をもろに食らえばひとたまりもない。それに、今の状態では砲塔こそ正面を敵に向けているが、車体はケツを晒しているのだ。三両目によってそれがいくらか隠されているとはいえ、大きな不安要素となっていることに変わりはない。

 どうにかしなければならないが、戦車なんて指揮したことがないのだから頭が回らないのも仕方がない。カンカンと銃弾が装甲に当たって跳ね返る音に怯えていると、側面に味方が合図をしているのが見えそちらにペリスコープを向けると、彼らが指さしているところには大きな穴が空いていた。そうだ、これは元々のこの戦車の乗員がこの立ち往生から脱出しようと側面の建物に穿った穴だ。

 まだ穴は人が通れるくらいの大きさしか空いていなかったが、重戦車の装甲とトルクがあれば、それだけの穴でも十分だった。ベルケンはエルゲー伍長に側面の穴に突っ込むように指示すると、彼は慣れない重戦車の操縦ながらもその場で信地展開し他の建物の外壁を削り取りつつ側面を向いた。

「急げ!」

 彼は側面を思い切り敵に晒している恐怖に怯えしきりに敵の方を確認しつつ怒鳴る。

「わかってるでありますよ!」

 エルゲー伍長はむしろ戦車のプロであるため、彼が言わんとしていることくらい十分に理解しつつ、戦車を前進させた。近くで手榴弾が爆発し、砲塔後方にある用具箱にロケットが命中し木端微塵に吹き飛ばしたが、砲塔自体への直撃は免れたため、なんとか乗員や戦車にダメージはなく半壊した建物に突っ込むことが出来た。

 戦車は壁を粉砕し瓦礫を踏み潰し、小さな食堂であったと思われる建物の中を完全に破壊しながら突っ切りそのままの勢いで反対側の壁を突き破った。猛烈なエンジン音と、石造りの壁が粉砕される音、そしてキャタピラが六十t強の重さのままに何もかもを踏み潰していく。その迫力は目の前で見るにはあまりにも十分すぎるほどボルトラロール達の眼に焼き付いた。

「オーセス軍曹、ジュードル軍曹!ヴィレルラル軍曹たちを迎えに行くぞ!」

 ボルトラロールは向かい側で壁を抜けて大通りに出た戦車の後姿を見送りつつリンドと降りてきていたジュードルにそう告げると、リンドは元気よく返事をして彼の後に続いた。

 ゼーキ軍は、壁を突っ切って消えた戦車を追いかけ、表通りへと曲がっていったため、リンドとボルトラロールに気づくことは無かった。

 二人は走る。大丈夫だとは思うが、怪我人と新兵では不安は募るばかりである。

「ウェッテウ!」

 進路上にゼーキ軍の兵士と出会い、敵兵が向こうの言葉でこちらを指さしながら叫んだ。その叫び声に他の兵士が集まってリンドたちを攻撃し始めた。

「マズイマズイ!」

 三人は慌てて自動車の残骸に身を隠すと影からそっと向こうの様子を覗く。

「四人か……なんてこった」

 ボルトラロールの悪態は敵兵と出くわしたことだけのためではなかった。先ほどまでいなかった場所に敵兵が進出してきているということはヴィレルラル達のところにも表れている危険性があるためだった。

「くたばれ!」

 ジュードルは地面に這いつくばると、車の下の隙間から敵の足を掃射する。

「アアアーー!!」

 一人が足に銃弾を受け倒れたところを更に追撃し、仕留める。

「いいぞ、軍曹!」

「っす!」

 そう喜んでいたのも束の間、すぐ近くでいつの間にか投げ込まれていた手榴弾が爆発し、ジュードルは吹っ飛ばされてしまった。

「軍曹!オーセス軍曹、頼む!」

 派手にガラスを突き破って帽子店につっこんだジュードルの様子をリンドに任せ、ボルトラロールは敵の牽制を行う。リンドはジュードルが突き破ったショーウインドウから中に侵入すると、ジュードルの様子を確認する。

「ジュードル軍曹!無事ですか!」

 ライフルを肩にかけると、リンドはジュードルの怪我の様子を診る。

「ゴホッゴホッ……クソッ……効いたぜ」

 ジュードルは顔を煤だらけにし、数か所切り傷を作った顔を歪ませていた。体のほうはどうかと見てみると、腕や体に軍服が切られた痕と、血がにじんではいたが、酷い怪我のようには見えない。リンドは彼の上着を捲るが、やはり、大きな傷は見られなかったものの手榴弾の金属片が二かけ、ジュードルの腹部に軽く突き刺さっていた。

「抜きますか?」

 そう尋ねたリンドに、ジュードルは顔をしかめつつ頷いた。

「頼むぜ、中々いてえが……」

 ジュードルが歯を食いしばると、リンドはグローブを外して慎重に欠片を引き抜いた。

「うっ!!」

 痛ましい呻き声を上げ、リンドの服の襟をつかむ力が強まる。幸いにして分厚い軍服が破片の威力を大分殺していたために傷は浅く、出血も酷くはない。もう片方も引っこ抜いてしまうと、リンドは雑嚢から消毒薬と包帯を一巻き取り出すと、まず消毒薬を振りかけ次に包帯をしっかりとジュードルの胴に巻き付け止めた。これは、当然ながら懲罰部隊にそんなメディカルキットなど与えられないため、敵兵からパクったものであった。止血剤や抗生物質も欲しいところだが、中々手に入らないのが現状だ。敵もかなり物資不足なようだが、それも当然だろう。何せ敵国にとってはもう本土決戦の状態なのだから。

「ジュードルの様子は!」

 ボルトラロールが単身しきりに反撃して敵を寄せつけぬよう牽制射を行いつつ叫ぶ。

「えっ、あっ、重傷ではありませんが!腹に手榴弾の破片が二つ刺さってたので抜いて、消毒薬と包帯で応急処置をしました!」

「よし!」

 ひとまず命に別条がないことを安堵すると、功を焦って迂闊に飛び出した一人の胸に銃弾を叩き込んで殺すと、一旦リロードのため車の影に戻る。だが、マガジンを挿す腰のベルトをまさぐった彼は悪態をついた。

「軍曹!マガジンを!」

 自分としたことが残弾数を頭に入れるのを忘れてしまうとは。彼は自分が自分で思っていた以上に焦っていることに気が付いた。

「隊長!」

 雑嚢からマガジンを二つ放り投げて彼に渡すと、すぐにマガジンを装填し最小限の面積を射線に晒した。

一人がこちら側の火線が途切れたことに察し、早歩きで接近していたのだが思っていたよりもボルトラロールの復帰が早かったため、兵士は身を隠す遮蔽物もない場所で空しく斃れた。

「あと一人、どこ行った?」

 最後の一人が見当たらないと疑ったのも束の間、車の影に隠れていたその一人がナイフ片手につかみかかってきたのだ。そのままもつれ込んでもみ合いの死闘になるかと思われたが、彼と違って生憎生きているのはボルトラロールだけではなかった。ボルトラロールを下にして二人が倒れこんだところで、ジュードルの手当てが終わったリンドが思い切りボルトラロールに覆いかぶさっている敵兵を蹴り上げると、転がったところにライフルを撃ちこんだ。

「はあっ、はあっ……すまない、助かった……」

「いえ」

 リンドはジュードルに肩を貸して立ち上がると、ボルトラロールが先頭に立ち二人を守りながら進む。そのまま三人は敵と出会うことなく、ほどなくしてヴィレルラル等と合流した。

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