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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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彷徨える装甲

 前後の車両が撃破された真ん中のバザモは、狼狽えている様がありありと見えていた。前後を撃破された僚車で塞がれ前には進めず後ろには戻れず、横から回り込みたくとも、市街地と言う戦場と自らの重戦車のための図体とが組み合わさって二進も三進もいかなくなってしまったのだ。

 こうなれば、対人機銃に気を付けつつ残りの随伴歩兵を始末し、それからゆっくりと戦車を料理すればいい。先ほどまで圧倒的不利な立場にあった彼らもあっという間に逆転し狩られる側から狩る側へと逆転していた。

 残りの歩兵も一人、また一人と始末されていき、遂に最後の随伴歩兵がボルトラロールの手によって撃ち抜かれた。戦車を見ると、分厚い鉄の装甲の内側から恐怖が感じられる。彼らは細心の注意を払いつつ、戦車へと近づいていった。

 が、ここで一つ重大な問題が発生していた。手榴弾はもう既にガリボルらが使用しており、使われていないはずの残りの手榴弾は、ここに来られなかった者たちが運悪く運んでいたのだ。戦車をどう始末するか、対策が急がれるが懲罰部隊の内の一人、片目を失っているジラールという元AA部隊の兵士が一つの提案を述べた。

「撃破しなくともよ、分捕っちまえばいいんじゃねえか?」

 彼の提案に、ボルトラロールらは眉間に皺を寄せる。

「鹵獲ってことか?」

「ああ、扱えるかわかんねえが、もし使えるならかなりの戦力になる」

「だが、肝心の戦車兵が……」

 彼らは寄せ集め、幾つもの兵科から兵士が集ってはいるものの、だからといってなんでもいるわけではなかった。寧ろ、ここにALのパイロットが一個小隊分もぶち込まれているほうが珍しいと言えよう。そのALが一機もないのだが。

 しかし、いまいち踏み切れないボルトラロールに対し、ジラールはあてがあるらしく大丈夫だと言って聞かせると、通りを素早く横切って自分の班と合流した。

「大丈夫と言ってもなあ……」

 せめて自分が操縦出来るだとか向こうに元戦車乗りがいるだとか言ってくれればいいものを、どうしてそう不安要素をこちらに残していくのか、ボルトラロールは深くため息をつくと向こう側が動くのを待った。

 ジュードルを残してリンドは一階に降りていたボルトラロールと合流すると、窓枠から顔を覗かせて行く末を見守っていると、もたもたしているうちにバザモがどうにかこの追い込まれた状況を打開しようと砲塔を側面に向けると建物に向かって榴弾をゼロ距離射撃した。

「うわっ!!」

 爆風に驚いておもわず転がる二人。バザモは更にもう一発撃ち込む。ここで彼らは戦車が通りを形成していた建物の一つが二階以上の部分を残して、向こう側に通ずる穴を造り始めたことに気づき急いで行動に移した。

 ジラールともう二人が後方からバザモの車体に乗ると、そのままハッチを開け中に向かって銃を突きつけ叫んでいる。よく聞き取れないが、恐らくゼーキの言葉であろうが、考えられる内では恐らく投降しろだとかそう叫んでいるのだろう。ほどなくして、ハッチから順番に六名の兵員が戦車から這い出てくると彼らはどこからか持ってこられた即席のロープで全身をがんじがらめにし建物の中に見張りを点けた状態で転がされた。

「で、これからどうする。誰が動かすんだ」

ボルトラロールは、ジラールに向かってそう尋ねる。

「それについてだが、少なくとも操縦士はこっちで用意できる。エルゲー、来てくれ」

 呼ばれてきたのはテルペヴィラよりも小柄な若い男で、顔も服も泥やら煤やらで随分汚していたが彼が来ている上着は確かにシェーゲンツァート陸軍の戦車兵のものと見覚えがあった。

 ボルトラロールは彼の肩に手を回しながら、目の前に沈黙している異国の重戦車を見て短くただこう言った。

「やれるか」

 それに対し、彼もまた短くこう答える。

「やるしかないでありますよ」

と。

「しかしだな、エルゲー……伍長か。君は操縦手か?」

「はい、自分は第一機甲師団で弾薬運搬車の操縦をしておりました」

「ま、待て」

 ボルトラロールは珍しく狼狽える。

「弾薬運搬車?戦車乗りじゃないのか?」

 彼の言葉に若干の苛立ちを覚えたのか、エルゲー伍長は少し声に込めた力を強めて反論した。

「弾薬運搬車はヴィルモルドーを流用したれっきとした戦車であります。確かに直接の戦闘車ではありませんが、キャタピラ駆動であることに違いはありません」

 ヴィルモルドーはシェーゲンツァート陸軍で十三年前まで主力を務めていた旧式の戦車だ。順次フロウルへと更新されていき、そのフロウルも時期次なる主力へと更新されようとしている。そのため殆どの車両が一旦は一線を退いたのだが、長引く戦局にフロウル他主力戦車の数が足りなくなっており、再び前線へと引っぱり出されている戦車である。堅実な設計であるため故障しにくく扱いやすいのが特徴のその旧式は、弾薬運搬車として等で前線で今なお活躍中であった。

 そんな作業車の操縦手であったことに一抹の不安を覚えたボルトラロールであったが、この際わがままを言っている余裕もないため、彼にこの鹵獲戦車の操縦を任せることにした。

「だけど」

 クーリス上等兵という元陸軍の歩兵が、気になっていた点を問う。

「操縦手はいいけどよ、他はどうすんだ。まさか一人で戦えるわきゃないだろ?」

 そう彼は縛ったバザモの乗員六名を顎で指す。正規の兵でも六人必要なのだ、こちらだって六人で運用せねばなるまい。しかし、ここに残っている全員をしても、戦車の経験がある者はエルゲー伍長ただ一人であった。

「どうする、急がないとまた敵が来る」

「ああ、兎に角……砲兵経験者!」

 ボルトラロールが叫ぶと、ビルミーマ軍曹という者が手を上げた。すかさず有無を言わさずに彼に砲手を務めるように指示した。

「えっ……わかりました」

 突然の任命に狼狽えを見せたが、すぐに了承すると戦車へと乗り込んでいった。彼も今はああだこうだと言っている余裕はないと理解しているのだろう。

「通信手!できるものは!」

 誰もいない、そもそも通信士はそこまで数がいるわけでもないし、あまり通信士が懲罰部隊に送られるようなシチュエーションが思い浮かばなくもあった。仕方がないので、ボルトラロールは目についたものにそれを任せ、その任を任されたのは陸軍歩兵であったケンナン一等兵である。次に装填手だが、これは一番逞しいヴューリーア兵長とその隣にいたグーグン伍長に任せた。そして車長、これをこの中で自分に次いで階級の高いベルケン曹長、これはバザモの死角を述べ、そして大胆にも二階から肉薄攻撃をしかけてバザモを見事撃破し生還を果たした彼である。

「俺が?指揮を?無茶な……」

 階級だけで乗ったこともない戦車の指揮など任されても困る。彼は抗議をしようと指を立てたが、その時丁度通りの向こうから敵の歩兵たちが現れたため、慌てて戦車に飛び込むとハッチを勢いよく閉めた。

「頼むぞ!」

 ボルトラロールは銃床で車体側面をコンコンと殴ると、すぐに建物の方へと身を隠した。

「まいったねこりゃ……」

 とりあえず車長席に収まったベルケン曹長は車内を苦い顔で見回すと一呼吸おいて命令を下した。

「榴弾こめろ!」

 始めはまずエルゲー伍長にぶっつけ本番での教えを受けつつ乗員たちは慣れない戦車の操作を行っていった。装填するための弾は思っていたよりも数段重たく、二人の装填手は苦労しながら弾を込めると、砲手のビルミーマ軍曹は慎重に狙いを定める。幸い、敵はこの戦車が鹵獲されているともしらず、こちらのことを未だ味方の戦車としか思っていないようだ。

「この距離なら……」

 レクチャーを受けつつビルミーマはレバーを手前に引いた。轟音と共に撃ちだされた九十二㎜の砲弾は、まっすぐ前進してくる敵歩兵部隊ど真ん中に着弾すると、何人もの敵兵を宙に舞わせた。

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