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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第六章 広がり続ける悲しみと血と
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切り裂かれる命(2)

「ううっ……」

 リンドは、自らの震える足に気づくとそれを抑えようと必死に手で押さえつけようとするのだが、なかなか収まらない。いや、違う、腕も震えているのだ。それどころじゃあない、体中が震えに震えていた。いつもなら、こんなことはない。もっとひどい弾幕の中に晒され、一mも向こうに数千発の弾丸が吹き荒れていた時でさえもこんなにも恐れを覚えたことなどなかった。そうだ、いつもなら分厚い装甲版に守られているから、だから、こうも……

「リンド、大丈夫か」

 そう声をかけるのは、彼の異様な様子に気づいたボルトラロールであった。

「え、ああええ……すみません、なんというか、その」

 言葉に詰まる彼に助け舟を出すように、ボルトラロールがその続きを述べる。

「初めての白兵戦で怖い、か」

「ええ、まあヒッ」

 丁度良く目の前を流れ弾が飛来し、彼のヘルメットの先に軽く掠めて向こうのコンクリ造りの壁に突き刺さったために、顔を引きつらせて固まるリンド。その背後で、ヴィレルラルが道路を挟んでしばらくの尖塔の中腹に潜む狙撃手を撃ち抜いていた。

「曹長殿、すごいでありますね……」

 その様子を見つめていたテルペヴィラは、呆然とヴィレルラルの狙撃の腕に感心していたが、実はヴィレルラルもまさか初弾で狙撃に成功するとは思っておらず。彼自身も先ほどの狙撃に若干驚いていた。いくら砲撃機乗りとはいっても、彼も別段狙撃が得意というわけではない、そういう偏見が世の中にはあるらしいが。

「さて、どうしますかね……お、食いモンか?」

 ジュードルは倒れている敵兵の死体を引っ張ってくると、持っていた荷物を漁りめぼしいものを探していたが、どうやらレーションを見つけたらしく、外国語で書かれた謎のグレーのパックをこれまた拾ったバッグに押し込んでいた。

「そうだな」

と、ボルトラロール。彼は敵の射線上に入らぬよう顔を半分だけ外にちらつかせつつ適当な建物に目星をつけていたが、突然険しい面持ちになるとそのままリンドたちの方を振り返ってこう言った。

「戦車だ……」

 それを聞いたジュードルとヴィレルラル、他兵士は苦い顔をしたが、リンドとテルペヴィラだけはなぜそんなにもマズイ顔をしているのかが理解できず、思わずこう尋ねてしまった。

「戦車がどうしたんです?軽くのせるでしょう……」

 するとジュードルが語気を荒げて彼の頭をヘルメットごとライフルの銃床で叩き、金属音が響いた。

「あいたっ!」

「そりゃALに乗ってりゃ戦車ならやれる、だが今の俺たちは生身だぞ!しかも対戦車砲すらねえ、手榴弾だって数発、臨機応変に考えるんだよ間抜け!」

 そう叱り飛ばすともう一度彼の頭を殴りつけた。

「アイッ!?……そ、そうか。確かにそうですね……」

 そう言えば、戦車には確か対人機銃があったな、という非常に重要なことを失念していたリンド。主砲は彼の重ヴァルなら耐えうる威力ではあるが、生身なら文字通り木っ端みじんに吹き散らされ遺品も残らないだろう。先ほどから新しい気づきの連続で、少し頭がパニックに陥りかけるリンドであった。

「そら来たぞ!」

 同じ懲罰部隊の兵士が、通りの向こうを指して叫ぶ。

「どら、どんな奴だ?」

 ミニエナース帝国の戦車には第四小隊誰も知識が無かったが、ベルケンという元歩兵連隊出身の者がミニエナース帝国に隣接するザリオッタという国の戦線に投入されて戦ったこともあるらしく、現れた戦車を彼はバザモという重戦車だと教えてくれた。

「あいつの対処法は?」

 いかに重戦車と言えど、何かしら弱点があるはずだ。重戦車なら、大概はその重さと図体のデカさが仇となるし、大きさと砲の長さ故に接近戦には弱く、死角も多い。とりわけこんな市街地でならば、建物を利用して無限に死角を作り出すことだってできる。するとやはり弱点はあるようで、ベルケンは以前自分たちが撃破した方法をその場にいた全員に伝える。

「えっと、前はバザモから見て七時の方向から近づいて背後からグリルから収束手榴弾を放ったんだ」

 それを聞いた皆は落胆した。

「収束できるほど手榴弾はあまっちゃいねえよ」

 ここにいる全員分の手榴弾を出してみたが、二十名合わせても四個しか集まらない。これではその案は使えそうもない。だが、確実な死角が知れたのは朗報に他ならない。ボルトラロールは全員に指示を出す。

「体当たりを仕掛けるしかない、身軽さに自信のある者に手榴弾を持たせてくれ、他の者は囮になって戦車を惹きつけ、その間に手榴弾を戦車のハッチから投げ込んでやるしかない」

 戦車がいくら固くとも、乗員はそうもいかない。確かに確実な方法ではあったが、同時に実に危険極まりない方法で、名乗り出るものも当然いなかった。だが、そこにジュードルが助け舟を出す。

「戦車とやり合って倒して勇ましく死ぬか、それとも情けなく背中から吹き飛ばされて死ぬか、どっちがいい?え?俺は立ち向かって死ぬぜ、それがシェーゲンツァートの男ってもんだろうよ」

 彼の言葉に、皆が言葉を詰まらせる。シェーゲンツァートは海の男。海の男なら、目の前の大波に背を向けて死ぬのかと問われれば、本能でも立ち向かいたくなるというもの。

「……俺がやる」

 と、一人の男がジュードルの言葉に突き動かされ志願した。志願したのは顔に大きな傷のあるガリボルという元海兵隊兵士、日ごろの厳しい訓練で鍛えられた体なら、あるいは。そう思い、挙手をした。

「よし、あと一人は欲しいな。誰か」

 直後、一発の戦車の砲弾が隣の建物に着弾し、その二階に隠れていた味方を建物ごと吹き飛ばしてしまい、その衝撃で上から埃が舞い落ちてきた。

「やばいぞ、ここからここまで、その五人はあの赤い店の通りを迂回して戦車の側面に回れ!そこの四人はここで戦車の監視をしつつ、味方にジェスチャーでいい、指示を。そこの三人はあっちの噴水広場から通りを渡って側面を、そして残りの三人で後方を。第四小隊、俺たちはあの街路樹のある路地に走るんだ!行け!!」

 蜘蛛の子を散らすかの如く、二十人はボルトラロールの指示の通りに走りだした。一斉に十六人が四方へと向かって走り出して、当然目を引くというもの。一斉に彼らに向かって銃弾が走った。

「行け行け行け行けーーっ!!」

 絶叫ともとれるほど裏返ったジュードルの叫び声と銃弾の発射音をBGMに、彼らは走る。一人、また一人と銃弾に倒れていくが、それでもどうにか彼らは指示された場所にたどり着いたが、路地裏に入る直前に最後尾を走っていたヴィレルラルが腹部に銃創を受けてしまった。

「グッ!?」

 くぐもった呻き声を上げながら倒れそうになるヴィレルラル、だが彼は火事場の馬鹿力とでも言うべき力を振り絞り、何とか四人の待つ建物の影に飛び込むと、そのまま倒れてしまった。

「あの店に運べ!」

 ジュードルとリンドがヴィレルラルの手足を掴んで持ち上げ、急いで建物の中に走りこんだ。

「ふう、ふう……」

 じんわりと脂汗をかき始めたヴィレルラルは、顔を痛みにしかめながら撃たれた箇所を強く抑えている。

「畜生、医者もいなけりゃ薬もねえ!」

 ボルトラロールが彼の容体を診ている間に、リンドたちが店の中で使えそうなものを探したが、生憎とここはブティック、薬品などおいてあるはずもなかった。包帯が必要だが、リンドたちは持ち合わせておらず、仕方がないので棚の中で埃を被っていた紫色の婦人用ドレスを引き裂くと、包帯の代わりとした。

「大丈夫、弾は抜けてる……せめてサルカータ(※1)でもあれば……」

 負傷したヴィレルラルの手当ても重要だが、戦車に対しての一斉攻撃も重要である。ここで自分たちが遅れれば、攻撃は失敗し最悪全滅ということにもなりかねない。自分たちだけでなく、他の同じ境遇に立たされた懲罰部隊の同胞たちの命もかかっているのだ。ボルトラロールは悩んだ末に部隊を分けることにした。

※1 サルカータ:この星における消毒用の万能薬品。地球で言うペニシリンのようなもの。ベグーという山間部に自生する植物を使用して精製される。

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