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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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凍結!(3)

 ボルトラロールの発案により、敵基地を襲撃し物資を強奪するという作戦を実行しようとしているリンドたちであったが、現実はそうもうまくはいかないのが常であった。彼らを阻んだのは敵ではなく当然天候である。ここ数日の積雪によってさらに高さを増した雪はより部隊の進軍を邪魔しており、一日で一キロ進むのもやっとというありさまで、余っている弾薬の重量も相まって燃料を余計に消費し混成軍の兵士は喘いでいた。

 そこに追い打ちをかけるように敵の部隊が雪の中で停滞している彼らに襲い掛かってきた。

〈ヴィレルラル、オーセスは対空防御!ジュードルとテルペヴィラと俺で正面のあのすばしっこいのを攻撃する!〉

 現在、彼らは地上と空の両面から攻撃を受けており、始めに爆撃機が爆弾を投下し歩兵と車両、ALに損害を受けた。そこに対地ヘリとホバリングカー部隊の追撃が起こる。

 ホバリングカーとは世界的に採用されている雪上用の小型軍用車両である。軽量高機動のそれは雪上ではソフトスキンに対しては無類の強さを誇るだけでなく、ALや戦車のようなハードスキンに対してもその動きで攪乱をしつつダメージを与えてくるという厄介な代物であった。攻撃を一発でも当てさえすれば破壊できるが、その当てることが中々に難しいのである。

 事実、ほぼ全員がホバリングカーを初めて眼にし、あの高速で雪を巻き上げながら迫ってくる物体はなんなんだと戸惑っているうちに多連装ロケットランチャーなどの攻撃を受けて損害を出していってしまう。

「ガアアア!!」

 雪に足をとられ上手く回避行動が取れず、直撃を受けてしまい、正面装甲と機銃が破壊されてしまった。だが、これでやられるほど重ヴァルの装甲は柔ではない、黒煙未だくすぶる中、煙を揺蕩わせながらも立っていた重ヴァルは、ガトリングシステムを展開させると斜め上方に仰角を取り二秒間の斉射を行った。僅か二秒であるがその間に数百発の弾が撃ち出され、射撃と同時に上半身を左に旋回させたため四機のヘリは一瞬の内に鉄屑以下の塊となって地上に降り注ぎ一両のホバリングカーを巻き込んでひっくり返した。ヴィレルラルも対空弾頭に変更すると観測装置の測量に従って砲撃を行いヘリを撃破していく。

 一方エルトゥールラ軍のALも別方向から回り込んできたホバリング式のAWの対処に追われていた。彼らは接地の悪い雪面に腰を落して片膝立ちの姿勢を取ると、両端の二機が立てたほうの足の脛の装甲を展開、中から現れたのは連装式の小型弾頭であった。それらを射出すると、ひょろひょろとした放物線を描きつつもホバリングカーたちの進路上に落着、数秒の後信管が作動し爆発を起こした。

 この攻撃で四両のホバリングカーが吹き飛ばされ、側面に展開する敵部隊は攻勢を挫かれ一旦撤退を始めた。そこに、残りの二機がロングライフルを用いて的確に、可能な限り少ない弾薬消費で退いていく敵の装甲戦力を撃破していった。

 が、そこに不運にも側面から敵の放った対戦車ロケットの流れ弾が飛来し部隊の一番右側に構えていたベザンの右わき腹に直撃したのだ。細身のベザンでは、側面からの対戦車ロケットの攻撃に耐えることはできない。直撃を受けたベザンは被弾箇所から黒い煙を噴き出しながら片膝立ちの体勢のまま動かなくなった。すぐにその左にいたビト少尉の機が近づきしきりに僚機のパイロットに問いかけ続けていたが、被弾箇所から見てもまずパイロットが生きているとはいいがたく、やがて少尉たちはその機を諦めた。

〈前進するな!防衛だけを考えるんだ!〉

 ボルトラロールは部隊にそう呼びかけるが、第一この雪で皆進みたくとも進めないのだから。

 混成軍側は苦戦を強いられてはいたものの、重ヴァルの火力を用いてのごり押しと攻撃側の戦力が足りなかったこともあり次第に押し返され始め、十両目のホバリングカーが撃破されたところで敵も後退し何とか防衛することに成功していた。だが、少なくない犠牲を払うこととなった混成軍側はここで完全に足止めを食らってしまい、さらに膠着状態へと陥ってしまった。

 負傷者の治療と攻撃を受け故障した兵器の修理に予想以上の時間を食ってしまい、実に三日もの日時を費やしたころには再び吹雪が吹き始めていた。



「クソったれ……」

 キャンプ内に造られた仮設の雪のシェルター「ビジャヌタア」(※1)の中でうずくまっているジュードルが呟いた。伸びた髭や眉には霜が降り、表情は完全に凍り付いておりいつもの余裕は一切見られない。その隣に同じように座りこんでいたリンドも、微動だにせず黙って中心で燃える小さな炎を一心に見つめ続けているばかりであった。

 あれから更に五日が経過した。助けは来ず、進むことも出来ず。物資は減り続けるのに雪は増え続けていくばかりだ。一度ほんの一、二時間ばかり晴れた際に全員で回収してきた投下物資で何とか命を繋いでいたが、それももうそこを尽きかけている。

 この極限の状態に耐えかねたボルトラロールら士官は何度も司令部に撤退を打診したものの、今が攻勢の時と考えている司令部は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。彼らはただ目の前で自身も凍り付きながら数百人の部下たちが寒さに凍って死んでいく様を黙って見守ることしかできないこの状況を見ているほかなかったのである。

 ふと、近くに砲撃の弾着音がしたのだが、誰も戦闘態勢を取ろうともしない。黙って嫌がらせの砲撃が止むのを待つだけだ。五分もすれば砲撃は止む。

 もう重ヴァルには二日も乗っていない。今頃コックピットハッチが凍り付いているかもしれないし、雪で埋もれてしまったかもしれないが、正直どうでもよかった。この絶望と寒さとひもじさが兵士たちから考える力を奪っていく。あのボルトラロールでさえ、魂すら凍り付いたかのように黙ったままで、昨晩呻き声を聞いて以来今日はまだ声を聞いていない気がする。

 彼はなんとなく、火を挟んで向かいに寝転がっているテルペヴィラに眼をゆっくりと視線を動かすと、彼は顔を真っ青にして震え続けていた。このままでは死ぬだろうな、と思うが、何かしてやれることもない。

ヴィレルラル軍曹はコックピットで待機中だ。

 セレーンはどこにいるのだろう。暖かいところにいるのだろうか。自分のこの冷え切った手を彼女の柔らかく暖かな手で優しく握って暖めて欲しい、炎を見つめていると、まるで炎の中に愛しい人が浮かんでくるようで、いつの間にか気づかぬうちに火に手を伸ばしていたリンドは、手袋が燃え始めて五秒ほどしてからそれを見て我に返ったボルトラロールが叫びながら雪をかけたことでようやく自分の手に起きていることに気づき、声にならない声を上げながら手首を振って手袋を雪に叩きつけ消火した。

「はあ、はあ……ああ……」 

 彼は大きく焼け焦げてしまった手袋を見て肩をがっくりと落したが、一応使えることには使えるので外さずそのままつけておくことにした。 

 起きたこととしては些細な事故で遭ったが、これがきっかけで目が覚めたボルトラロールが行動を起こす転機となり、リンドたちの命運が掛かった大事件が起こることとなる。部下のあまりにも困窮した姿に、例え自分を犠牲にしてでも動かねばならない、そんな思いが宿ったボルトラロールは、一人立ち上がると他の士官たちのいるビジャヌタアへと向かった。その背中を彼らは見送ることなくただ火を眺めつづけているだけだ。ただ今は、先ほどの珍事で火が消えなかったことに安心していたかった。

※1 ビジャヌタア:マスラ=レガ=ファリオーラ民主主義共和国に住む原住民ランダタ族の雪を押し固めて作った氷の住居。いうなればイグルーやかまくら。

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