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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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凍結!(2)

 翌朝、混成軍を襲っていた猛吹雪は勢力を著しく落としてはいたものの以前として彼らに吹きつけ続けていた。うっかり眠ってしまったリンドは凍死することなく寒さによって目が覚め、こわばってしまった体を伸ばして冷たいコックピットシートに体を納めた。昨晩からずっと着込んだままのコートのその有用性を身に染みて実感しつつ彼はしっかりとグローブを嵌め直して機体の起動準備に入った。

 ここで、昨晩ボルトラロールが戦車や車両が機能を停止してしまっているという問題を話していたことを思い出し、彼は祈りながらレバーを捻った。いつものエンジンスタートの音がコックピットブロック外から聞こえほっと一安心したのも束の間、そのまま持ち上がることなく気の抜けた音を出して静まり返ってしまった。

「ちょまっ……」

 もう一度彼はレバーを捻ったが、やはり同じように起動しかけたかと思うとすぐにエンジンは黙ってしまう。反応炉自体は一度落とすと再始動に大掛かりな設備や人員が必要となるため常に休まず稼働しているはずなので、電源は生きているはずだ。となるとやはりラジエーターかスターターのあたりで凍結などの問題が起きているのだろうか。リンドはマニュアルをめくって対処法を探していると、こういった場合の緊急用の暖気手順が記されていた。

 マニュアルが言うには、常に稼働している反応炉の熱を利用してそれを機内に流し込むことで機体を暖めることができるのだという。リンドは若干の不安に駆られつつも、その手順に従ってコンソールや今まで弄ったことのない端の方にあるバルブなどを捻っていくと、重たい金属同士が擦れあう音がした。恐らく機内を通っている反応炉とつながっているパイプの弁が開かれ機体内へと流出し始めたのだろう。反応炉の周囲で暖められた空気が胴体部のあちこちへと広がり徐々に機体を凍結から回復させ始めた。本来冷却機構が故障した際の緊急臨時用空冷マニュアルであったものを現地のメカニックマン達が考案、それが上に知られると安全性に問題がないように手を加えられ正式にこの機体のマニュアルに書き加えられる運びとなった、というバックグラウンドがあったが、殆どのアルグヴァルのパイロットはそんなこと知る由も無かった。

 そういうわけでどうにか機体の凍結をほぐすことが出来たリンドは、改めて機体の再始動に掛かった。

「頼むぜ……」

 彼はただ機体の始動を祈ってレバーをゆっくりと捻った。始動音、そしていつもよりいくらか長い点火の後、遂に待ちわびていた反応炉の本駆動音が機体を通じて彼の耳に入り、深いため息をついて始動を喜んだ。そんな折にボルトラロールから通信が入り、その内容に思わず苦笑してしまった。

〈各機少し待ってくれ、テルペヴィラ上等兵の機がなかなか起動出来ないようだ。他に出来ていないものはいるか?〉

 という問いに、残りの三人は大丈夫だという返事を返す。

「自分は大丈夫であります、フフッ」

 危うくあと少しで自分も新兵ともども恥ずかしい思いをするところであった。リンドは何事もなかったかのように落ち着くよう自分に言い聞かせながら機体状況のチェックに入った。やはり、あまり状態は芳しくないようで、いくつかの機能に影響が出ているようだった。空調も依然として反応せず、前照灯に至っては完全に死んでしまっているらしく、反応はするが点かない。だが代わりと言っては何だが室内灯は一つだけ再びつくようになったが、だから何だというのだ。



 しばらくして、朝食を取った混成軍の面々はより敵中深くへと雪をかき分けながら進む。他の方面からは友軍が戦線を押し上げているはずだ、こちらも頑張ってくさびを打ち込まねばならない。そんな使命感が彼らへこの極寒の地を進む力を与えていた。

 ALがその巨体を積雪にとられながらもったりとした動きでかき分けていく傍らで、それよりもずっと背の低い車両や兵士たちは前を行くALの踏み固めた足跡を利用していた。百ガトンを超すAL達が踏めば、人の背丈ほどに高く積もった雪もひざ下ほどにまで圧縮される。そのおかげで兵士たちはブーツを雪にとられることなく、進撃速度の低下をある程度緩和することが出来ていた。思わぬ副産物であった。

 だが、やはり寒さばかりは軽減することも出来ない。エルトゥールラ軍に比べ防寒装備が著しく劣っていたシェーゲンツァート軍の兵士たちは半ば凍傷に罹りかけていたのだが、そんな症状国では山間部でもない限りまず経験することもなかったため知識もなく、ただ刺すような激しい痛みを堪え冷たく重たい自動小銃を握っていた。

 まさか、雪中行軍がこれほどまでとは思わなかった。皆がそう思っていた。この国にきて初めて雪を見た兵士たちは皆到着すると休憩中にはその初めての感覚にはしゃぎ回って雪合戦をしたりひたすらに雪の上を転げまわったりして周囲の好奇の目を買っていたが、そんなこと気にも留めなかった。指揮官たちも、少しばかりは大目に見てくれていた、何故なら彼らもまた同様に雪に気を取られていたためだ。あの時はまだ晴れるか軽やかに降るばかりであったため雪の脅威を知らなかったため、もしこんなことになるのならあんなに雪に期待も感動もしなかったというのに。

 吐く白い息すら吹雪にかき消され、しっかりと前を行く仲間の背中を見ていなければすぐに自らを見失ってしまいそうになる。こんなところで取り残されればどうなるかはさすがの彼らも理解していたためどうにか目を凝らし腕を組むなどして連帯していたが、それでも疲れによりそれらの注意もおろそかとなってしまう。そうして、六時間後の休憩時の点呼の際には、人知れず五名のシェーゲンツァート兵と二名のエルトゥールラ兵が姿を消して二度と仲間の前に現れることは無かった。

 


 行軍から十日目、彼らは吹雪の合間に散発的な戦闘を繰り返し軽微な損害を出しながらも敵中奥深くまで

踏み込んでいた。混成軍は戦闘による損害は少なかったのだが、天候による被害は大きく受けていた。五十名以上の兵士が凍傷にかかり負傷、シェーゲンツァート側の装甲車一両が完全に故障し放棄、十名が行方不明、またベザンの一機が頭部を失っているなどの損傷も記録されている。そしてもう一つ重大な事態があった。

 物資の枯渇である。本来途中で空中投下による物資補給が行われるはずであったのだが、連日の吹雪や降雪により輸送機を飛ばすことが出来なかったためあれから満足な補給が受けられずにおり、車両の燃料、ストーブ用の燃料、食料、衣料品、防寒具が不足していた。このままでは、数百名の兵士が雪の中で無駄に凍り付いて失われてしまうだろう。

 そこで、この事態の緩和のために部隊の士官たちが考えた案が部隊に通達された。

「……集積所を襲う?」

 リンドは体を震わせながら送られてきた文章を読んだ。確かに臨時の作戦書には敵基地の物資強奪と、廃村からの物資の調達とあった。敵から物資を分捕るのは構わないが、気になるのは何故廃村という明言をしたのかだった。そのことを同じく疑問に思っていたらしいフルーがボルトラロールに尋ねると納得の答えが返ってきた。

〈今の俺たちの極限状態じゃ民間人を殺してでも物資を奪いかねない。民間人の殺傷は国際軍事協定によって禁じられている、事故ならともかくだが、違反すれば死刑だぞ死刑〉

 死刑、を強調されたフルーはウッと変な呻き声を上げるとなるほどと消え入るような声で返事をした。

 確かに、正直なところ村を襲ってでも暖かい食べ物が食えるというのなら、そうしてしまいそうな自分がいることを実感していた。こういう時にこそ、そういったことに注意を払うのが重要なのだろう。リンドは冷たいレーションを齧ると飲みこめずにいつまでも口を動かし続けていた。

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