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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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凍結!

「くそ……電気がおかしいぞ」

 リンドはコックピット内を照らすライトの内二つが先ほどからつかなくなってしまったため軽く叩いたりマニュアルをめくるなどして対処方法を考えていたのだが、一考につく気配がない。どうやらレギュレーターあたりに不調が出ているようだが、こんなのは酷く機体が損傷したときにしか起きたことがなかったため、原因不明のこの謎のライトの不調に彼は頭を抱えていた。

「あれ?」

 ふと、モニターの光量が明暗を繰り返していることに気づき、まさかモニタまでイカれてしまったのかと思ったが、どうやらモニタ自体は無事のようだ、しかしやはり明暗を繰り返している。いや、違うこれは機外の前照灯が点滅しているのだ。これは困ったことになった。ただでさえ視界不良の現状で外のライトまで壊れてしまうとより一層行動は困難となってしまう。彼が必死にマニュアルをめくっていると、ボルトラロールから定時点呼が行われた。

〈点呼、ジュードル〉

〈……ウッス〉

〈ヴィレルラル〉

〈はい〉

〈オーセス〉

「あ、はいいます」

〈テルペヴィラ〉

〈は、はい!テルペヴィラ上等兵はおります!〉

〈よし……〉

 第四小隊の面々がいることを確認すると、外の部隊と互いの情報を共有し、またエルトゥールラ軍とも同様に部隊の点呼状況を確認すると、会議を始めた。

 短めの会議の結果、今日はこのあたりをキャンプ地とすることが決まり、ようやく彼らは足を休ませることが出来た。

 車両が円を作って歩兵たちの壁を作り、更にその外周を九機のAL達が膝立ちをして盾となる。本来ならここで二名ほどの見張りを残して残りは外で休息をとるはずだが、この天候では誰も外には出たがらなかった。

「寒すぎる……」

 リンドは外に吹雪く闇を見つめながら、毛布にくるまりつつそう呟いた。コックピット内は完全に密閉され暖房も効いているはずだというのに、どうしてこうも寒さを感じてしまうのだろうか。彼はちらとコンソールの端に表示されている温度計を見ると、その数字に眼を疑った。

「マイナス!?」

 一瞬外気計と見間違えたかと思ったが外気計はより低い温度と風速などを示しており見間違えではないことがわかる。何故室内計がマイナスを表示しているのか、暖房が聞いているはずなのに。そう思い咄嗟にエアコンの送風口に手を翳すとなんと風が出ていないではないか。すぐにつまみを捻って設定温度を上げたが、一向に温風が送られてくる気配は無く寧ろパイプを通って冷えた空気がうっすらと流入してきており、すぐに彼はエアコンを切ると送風口を閉じた。

「隊、隊長!うーっ寒い!隊長!」

 リンドは慌ててボルトラロールに通信を試みると、通信機の向こうから眠そうな声が返ってきた。

〈ああ?……どうした軍曹〉

「あのっ、エアコンが壊れて!寒いんですすごく!」

〈エアコンが……?なに?〉

 彼も事態の重みを受け止めたようだ。通常の戦地ならエアコンが壊れたくらいそこまでの問題はない。だがこの局地においてエアコンが壊れたとなると、安全な内部で凍死しかねない。外の兵士は常に寒さに晒されるため十分に防寒具を支給されてはいたが、ALパイロットは内部で安全のためあまり十分な防寒具は備え付けられていないのだ。現に、リンドにあるのはパイロットスーツとベッド用の薄手の毛布くらいで、後は白兵戦用のヘルメットくらいである。だがヘルメットなぞ今必要ない。それよりもただ一枚の小さなタオルですら欲しかった。

「そうだタオルがあった!」

 彼は顔を綻ばせてシート下の空間をまさぐるとちょっとよれたタオルが一枚見つかり迷った挙句両手を包むようにかぶせた。

〈オーセス軍曹、空調が効かない原因はわかるか?〉

「あ、いえ……メカはさっぱりで」

〈だろうな……実を言うと俺もさっきから左モニタが点滅している、他にもあるが〉

「あ、隊長もそうなんですか!?自分もさっきから室内灯が二つ消え前照灯も調子が良くないんです」

〈不調か……もしかすると他の三人もそうかもしれない、ちょっと待っててくれ〉

 そう言うと通信機の向こうからコックピットの開く音と空気の流れる音、そして寒いと声を上げるボルトラロールの声が聞こえたかと思うと、それからしばらくの間彼と通信は取れなくなってしまった。どうやら外に出たようだが、一体何をしているのだろうか。モニタの端に一瞬だけ吹雪の隙間にボルトラロールの姿が映ったように見えたが……。

「あー……寒い!」

 気づかなければよかったと彼は悔いる。先ほどまでは寒いと思っていただけであったが、今は実際にエアコンが壊れ室内の温度が氷点下になっていることを知ってしまった。そのせいで寒さを意識してしまうのだ。なんとか頭から寒さを追い出そうとするが、余計に温度計が気になってしまいそちらにばかり目が逝ってしまう。

 外の兵士たちはどうしているのだろうかと思いカメラを後方に回すと、何やら明かりがいくつも映っている。ズームさせると寒冷地用の野外焚火器具に炎を焚いてその周囲に何人もの防寒具に身を包んだ兵士たちが群がってはスープを飲みながら暖を取っているらしい。

「いいなあ」

 寒そうな外の方が暖かそうなことに羨ましさを覚えながら、リンドはそれを指をくわえて眺めているしかないこの現状に、二度とこんな寒い地域にはいきたくないと決意した。寒さが、温暖な地域で生まれ育った青年の体を凍えさせていく。彼は体を丸めて少しでも体を温めようと震えているのだが、暖かくなる気配は無くただ静かに震えて耐えるほかなかった。

 しばらくの後、正面のモニタに動く影が映ったため虚ろに顔を上げると、先ほどよりも勢力を弱めた吹雪の中でこちらに手を振るボルトラロールの姿が見えた。彼のジェスチャーを見る限り恐らくコックピットを開けろと言っているのだろう。正直言って開けたくはないのだが、止むを得まい。

 操作アームを片手で持ち、重ヴァルの右腕を下に降ろして手のひらにボルトラロールが乗ったのを確認するとコックピットハッチのすぐ横まで持っていき震える指でパネルを操作すると、コックピットハッチが空くと同時に大量の雪がコックピット内に飛び込んできた。

「ううーっ!」

 未だ経験したことのない寒風が彼の体を襲う。その風の勢いと吹き付ける雪のせいで息すらもできぬほどに。

「よ!寒すぎるなあ!」

 やけに声を張り上げながらコックピット内に飛び込んできたボルトラロールはどこから調達したのだろうか、歩兵用のコートを纏っており羨ましく思いつつハッチを閉める。

「調べた結果俺とお前だけじゃない、全員、いやエルトゥールラ軍のALでも同じように動作不良が起きていた。それに戦車と車両もエンジンがかからないらしい。原因はこの寒さだろうな」

「寒さですか?」

 寒いと機械が動かなくなることがあるのだろうか、そんなこと今まで聞いたことないと言いかけた口をつぐむ。昔聞いたことがあった気がするのだ。うんと小さいころシェーゲンツァートでも観測史上最低の気温を記録した日に確か、家の車が動かなくなったような気がする。その時はまだ家も一般的な経済レベルをもっており、そして何よりまだ父が存命していたころだった。多少旧式になり始めそろそろ買い替え用かとしていた自家用車が寒さで動かなくなってしまい、仕方なく父は仕事場まで歩いて向かったような、気がする、恐らくそうだったような、多分。

 ともかく、そんな日より寒いこの状況下で、いくら頑丈な兵器とはいえ温暖な場所で開発された兵器が耐えられるわけもなく、数万というパーツで構成されている精密機械の塊のALは、当然ながら動作不良をおこしていたのだ。

「参ったなあ……あ、そうだお前の分だ」

 と、ボルトラロールは抱えていたコートをリンドに手渡す。

「これは?」

「歩兵連隊に感謝しろ、予備を分けてくれたんだ」

「そうだったんですね」

 早速そのコートを羽織ってみると、その暖かさが身にも心にも沁みたリンドは思わずホッと息をついた。コートの袖にはキッテマン陸軍のワッペンが縫い付けてあり、キッテマン側からの供与品であるようだ。メニユというこの地方に生息する暖かい毛皮を持った動物の毛で織られた表の布地は肌にとても柔らかく触れる。

「とにかく、今この動作不良を改善する方法はない。コートと毛布で我慢してくれ」

 そう言うと、ボルトラロールはハッチを開けて外へと飛び出した。素早くハッチを閉めボルトラロールを降ろした彼は、また体を丸めて冷え切ってしまった内部の空気が早く温まることを切に祈りながらコートの温かみを味わっていた。

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