終わりなき牢獄(4)
〈各機、歩兵と車両を守りつつ第三陣形!ヴィレルラル軍曹はALの対処を!〉
〈了解〉
彼の指示が下されると、第四小隊は弧を描きながら一列に並ぶと生身である味方の歩兵や車両部隊を囲むように展開し片膝をつくなどして姿勢を落とし盾となる。エルトゥールラ軍のALも村の方へと陣形を組むと狙撃を開始していた。
そんな中ジュードル、ヴィレルラル、リンドがスムーズに陣形に広がったのに対し、フルー機はぎこちない動きでその場で戸惑っているように見える。
〈どうした新人!〉
敵のAL部隊に三点射で狙撃を行いながらも背後で陣形を組んでいないフルーを問いただす。
〈あっ、えっとそのっうわああ!!〉
しどろもどろしているうちにただ一機姿勢の高かったフルー機は狙撃の的となり、敵ALのキャノンの直撃を受けひっくり返った。
「フルーがやられました!」
リンドは左後方にちらりと映った彼の機の様子をボルトラロールに報告する。
「右腕がふっとばされてます!コックピットは……多分無事です!」
〈了解した!セーミニェル曹長、うちの新兵の無事の確認をお願いできるか!〉
ボルトラロールがそう頼んだのは、シェーゲンツァート陸軍の第一〇三歩兵連隊所属の小隊長である。フルー機に比較的近くに陣を築いていた一〇三連隊にフルーの無事を確かめてもらえるよう要請すると、二つ返事で了承の旨が返ってきたため、ボルトラロールは反撃に専念する。
敵ALは小型である上に中々の手練れのようで、この動きづらい雪原を巧みに走り回ってはこちらの照準をずらしてくる。そのくせ隙をついて的確な攻撃を撃ってくるのだからなおさら質が悪い。
〈クソ……よし。各機、直撃を狙うよりは、囲い込め〉
ボルトラロールはリンドたちに戦法を変えるように指示する。その意図をいち早く察したヴィレルラルは、ボルトラロール機が一機のフェルメノに当たりをつけて敢えて命中弾を出すのではなくその周りに弾をばらまいて敵機の動きを制限したのを見計らってキャノン砲を叩き込んだ。徹甲榴弾は張り詰めた冬の空気を切り裂くと、フェルメノの側面装甲を貫いて上半身を木っ端微塵に吹き飛ばした。
〈いいぞ!この調子で倒す、次、右のバズーカ装備のをやる!〉
彼が指示したのは倉庫らしき建物の影に身を隠して頭と腕だけを出しているフェルメノである。その機体は正面からではわかりづらいため彼が見間違えたのも仕方がないことであったが、その機体が抱えていたのはバズーカではなくレールランチャーであった。機体よりもはるかに長い全長を持ったこの砲は、高速で弾頭を撃ちだし質量攻撃を行うものである。ただ、この名前から勘違いをする者も多いと思うが、これはレールガンのように弾を電磁加速させて発射する武装ではなく、通常の大砲のように火薬を利用して砲弾を撃ちだすというややこしい兵器である。分かりやすく言えば、巨大な戦車砲あるいは野砲をALに持たせているということになる。またこの状況下において稼働するレールガンなどあるわけもなく、そもそも今の所ALに搭載可能なレールガンはどの国でも実用化されていない。
雪原にこだまする発射音と共に、巨大な弾頭がレールランチャーから撃ちだされるとジュードル機の真横をすり抜けていった。独特の通過音がジュードル機のコックピット内にまで反響し、初めて聞くその音に彼は得も言われぬ危機感を覚えた。
〈あれはマズイですよ隊長!あんなの食らったら重ヴァルならともかく俺たちのじゃあ!〉
〈みたいだな〉
向こうでは、ランチャーに搭載されている自動装填装置が次の弾頭をレールに移動させている最中でやるなら今しかない。次はきっと命中させてくるはずだ。
戦車部隊の攻撃が他のフェルメノの頭部を破壊したが、その直後にまた別のフェルメノの放ったキャノンが一両のフロウル戦車の砲塔を吹き飛ばしてさらに舞い上がった砲塔が近くのドゥル装甲車のリアに落下、右の第八タイヤを軸ごと使い物にならなくしてしまった。完膚なきまでに破壊された戦車の乗員は全滅したが、砲塔の下敷きになったものがいなかったのは不幸中の幸いか。
「このーっ!」
そろそろレールランチャーの次弾が発射されるのではと焦ったリンドは、右肩のロケットポッドを展開し、三発立て続けにランチャー持ちのフェルメノに向けて発射した。白煙を引いてあっという間に到達したロケットは二発が外れ後方へと消えたが真ん中の一発がランチャー持ちの左腕をもぎ取った。そう、左腕であって、ランチャーを抱えていた右腕ではなかった。その直後、被弾して照準をつけられなかったためであろうか、第四小隊を大きく外れた弾は右側面を見せていたベザン三式の四番機に直撃した。
まるで山が割れたかのような轟音が密閉されたコックピットの中にまでけたたましく轟く、直撃されたベザンは爆発と衝撃波が左側面に貫通し、数mもの大穴を開け倒れた。コックピットなど跡形も残ってはいなかった。
思わぬところで思わぬ威力の兵器に出くわしてしまったようだ。ベザンが撃破された直後、皆攻撃の手が止まってしまっていたが、その中でもいち早く我に返ったヴィレルラルが冷静に、そして的確に照準を合わせ直すと、手負いのフェルメノを撃破した。それと同時にレールランチャーも破壊されこれで恐ろしい攻撃の魔の手から逃れることはできたようだ。
〈次!その隣だ〉
既に二機失った敵機も仲間の仇を討たんとすべく果敢に応戦してきており、両軍ともに大量の銃弾を浴びた。しかし、混成軍のほうはリンドたちAL部隊が身を挺して盾となったため、完全に損失したのはAL一機と戦車一両、それに兵士八名で済み怪我人は重軽傷合わせて二十名ほどであった。対して敵は恐らく戦車二両と砲兵、それにALを五機も失っている。決して小さくはない被害ではあったが慣れぬ雪上戦に加え待ち伏せの上囲まれるという不利な状況においてよく戦ったと言えよう。因みに、初っ端に倒れたフルーは中で目を回していただけで、軽い脳震盪だと衛生兵に診断されてからは痛み止めを飲んで戦線に復帰することとなった。アルグヴァルのダメージは右腕を失うにとどまった。
こうしてエルトゥールラ軍の偵察部隊を葬った待ち伏せに勝利しまた前に向かって進み始めた混成軍であったが、本当の地獄はここからであった。
進軍する彼らを再び襲ったのは敵ではなかった、彼らの進軍を阻んでいるのは猛烈な吹雪である。周囲の視界が覆いつくされ最早目視は効かず、レーダーとあらかじめインプットされている地形データに頼るほかなく、リンドはこの人生で初めての状況に恐怖しつつなんとか前方モニターに映る前を行くヴィレルラル機の背中の赤色灯を頼りにペダルを踏んでいた。今、彼の中に渦巻く恐怖は一つではない。あれほど物珍しかった雪が前が見えない程に勢威を奮っているという差の恐怖、一瞬でも気を緩めれば部隊とはぐれてしまうのではないかという恐怖、そしてもう一つあるのがAL乗りたちが良く感じる特有の恐怖である足元の人間をうっかり踏み潰してしまうのではないかという恐怖であった。戦場においては時折戦闘に意識を取られたALパイロットが味方の兵士を踏み殺してしまうという痛ましい事故が起きることがある。また非戦闘時においても不注意や死角などが重なって悲しい事故で命を落とす兵士もおり、それによって心を病んだALパイロットが退役するということにもつながってしまう。
この目の前がろくに見えない状況で、突然足元に小魚サイズの人間が現れたとしても気づける自信が彼にはなかった、それに彼らは冬季迷彩の装備を着込んでいるため余計に見えづらい。そういった恐怖に晒されているリンドであったが、それは他のALパイロットたちやそれだけでなく地上を行く装甲車ドライバーや戦車兵も同じ不安を同時に抱えていることをリンドは知らなかった。




