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武装鉄鋼アームドローダー  作者: 戦艦ちくわぶ
第五章 汚染されゆく星
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マリン・セメタリー(3)

 ヴィエイナらによって瞬く間に五隻もの船を沈められてしまった第二〇一水雷戦隊は、既に二十三隻中九隻を喪失又は戦闘続行不能にまで追い込まれており、オースノーツ軍との邂逅から僅かに三十分ほどで壊滅的状況にあった。海の覇者である軍艦も、航空攻撃に晒されれば羊も同然であった。せめて航空援護がついていればより少ない犠牲に済ませることが出来たのかもしれない。

 しかし、過ぎたことを悔やんでも仕方がないのだ。水雷戦隊は全速で味方の基地へと帰投すべく最大船速で戦域を離脱しにかかる。一斉に回頭を始めた艦隊にそうはさせるものかとばかりにヴィエイナたちは沈めにとびかかり、次々と被弾をしていった艦が炎上して海原に焚火を灯していた。

 ヴィエイナがライフルで駆逐艦の主砲を吹き飛ばすと、その反対側で艦尾目がけてザーレが二丁の二連ライフルを撃ち込んで全体を損壊させ、スクリューを破壊することで艦は進む手立てを失いただ波にされるがまま抗うこともできずに流されていくことになる。しかし、その前に彼らが沈めてしまうためそんな心配は無用であった。

 また、短い間に一隻の駆逐艦が沈んでしまった。艦隊司令部を乗せたサルベーリンではこの今まで遭遇したことのない悪魔の如き強力な部隊は一体何なのだろうか、自分たちは夢でも見ているのではないだろうか。そうは思わざるを得ない程に畏怖していた司令部は、兎に角友軍基地にスクランブルでの航空部隊発進を要請しながら水雷戦隊の強みである機動力を生かして遁走する以外にこの状況を切り抜ける方法はなかったのである。

「逃げていく……」

 落伍した味方の艦を置き去りにしてまでも彼らはこの場を離れたかったのだろう、そんな敵艦隊を追撃したいのはやまやまではあったのだが、生憎ともうヴィエイナたちに残された弾薬はあまりない。飛行型ALは地上用ALと比べて最大の強みはその機動力と三次元的な行動範囲であるが、その代わりに重たい鉄の塊を、それも航空機と比べると航空力学的に不適切な形状をした巨大な物体を飛ばすために色々なところに無理を強いている。その一つがペイロードの低さで出来るだけ重量を減らすために予備弾倉は地上用と比べると非常に少ない携行数を強いられる。それが、飛行型ALの継戦能力の低さにもつながっている。

 四人とも総じて弾薬は少ないのだが、とりわけザーレとジェリクが底を尽きかけていた。ザーレはもっている二連ライフルが重たいためその分の弾薬搭載量を減らし、両手に持っている分さらに消費量は倍となる。ジェリクは非常に重たいMASRにペイロードを大きく取られていたために携行武器はライフルと予備弾倉が二つのみでロケットすら積んでいなかった。

 碌に戦えるのはヴィエイナのみであるが、流石に彼女と言えども傷ついているとはいえ艦隊に単騎ではあまりに無謀と言える戦いであろう。だが、その無謀を時としてやってしまうのがヴィエイナ・ヴァルソー特務中尉であった。

「チェサレザ、後方から援護射撃を頼む」

〈は?何をするんで〉

 と、つい返したのだが彼にも彼女が何をしようとしているかくらい見当はついていた。弾薬がなければ船を沈めることは流石のエースパイロットでも出来ないものは出来ない。こればかりはどうしようもない、だが全滅させるとはいかずとも、せめて旗艦くらいは沈めておきたいというのがパイロットとしてのプライドというものだ。そういったパイロットにありがちな欲は例にもれずヴィエイナにも存在していた。

「後の二人は帰還して」

 そう言い残すと、彼女はグライフをこちらに背を向けている敵艦体に向かって飛ばしその後ろをチェサレザが追っていく。

〈そうはいかないでしょう!〉

〈そっすよ〉

 ザーレたちも援護のため追従しようとしたのだがそれをヴィエイナは厳しい声で一喝した。

「戦えないALがいても仕方ないでしょ、私は無駄に部下を殺す気はないから。それにザーレ、貴女は被弾してるじゃない」

 彼女の言う通り、ザーレの機は対空機銃によって右腕の肘から先を失っていた。だが彼女だけが被弾しているというわけではなく機銃をどこかしらに浴びており、ヴィエイナでもわずかばかりだが被弾は見られる。その中でもザーレが一番損傷具合が酷いという意味合いであった。

〈ま、上官命令だな〉

 ジェリクは既にヴィエイナたちに背を向けて高度を上げつつ母艦のいる方向へと向かっていた。こういう時割り切って引くときは引くと決断できるのが彼の強みなのだろう。それを見ていたザーレは、下唇を悔しそうに噛むと了解の旨を伝えてジェリクに続いた。母艦へと戻っていく彼らの遥か下方、海面下に八機の水中用ALが敵艦隊追撃のため潜行していた……



 追撃のために単騎迫ってくる白い型式不明のALに、その無謀ともいえるが殺気を纏った姿を見て艦隊は遁走しつつも必死に対空気銃で応戦を行っていた。しかしやはり小回りでは圧倒的にALに部があり、すぐに懐に潜り込まれてしまった最後尾の駆逐艦が艦尾を破壊され速度をみるみるうちに落としていく。その横をまるで炉端の石にしか見えていないかのようにグライフは通過すると、本命の旗艦サルベーリンへと肉薄する。流石に巡洋艦クラスになると、駆逐艦とは桁違いな弾幕の量で少しでも飛び出せばあっという間に複数の機銃座によってハチの巣にされてしまうだろう。至近距離で軽装甲な飛行型ALが機銃をもろに食らえばあっという間に機体はバラバラに破壊され海の藻屑と化す。

 彼女の援護のために移動しつつチェサレザが後方からライフルで散発的に弾をばらまくことで、後方の敵艦の照準を自分の方へと引きつけヴィエイナを狙う砲を減らしている。

〈隊長頼みますよ、お早く〉

 さも自分はかなり切羽詰まっているかのように彼女をまくし立てるが、その言葉とは裏腹に声色は実に余裕にあふれていた。まるでこの程度の任務朝飯前だとでも言うかのように。

「わかってる……」

 急かされるとやりづらい。ヴィエイナは機体の状態を横目で気にしつつ巧みに艦隊の合間を縫うように飛び攻撃のチャンスを待っていた。

〈第四エンジンの燃料が五十パーセントを切りました〉

 チューフの報告通り、脚部に備え付けられている飛行用のエンジンに供給されているタンク内に満たされている燃料が半分を切ってしまった。これも彼女の急激な燃費の悪いアクロバティックな操縦のためだろう。

「五パーセントごとに報告!」

〈了解しました。第三エンジンの燃料残り五十五パーセント〉

  そろそろ勝負を決めなければ、運が悪ければ帰還途中で墜落してしまう。エースパイロットが燃料切れで墜落などあってたまるか。彼女は機体をうつぶせにし胸部の先が海面を切るほどの低空で飛行しつつ十時方向からサルベーリンに迫った。敵の僚艦はサルベーリンとグライフの距離が近いため攻撃できず、サルベーリンもまた位置関係のため二門の対空砲でしか応戦できない。バシバシと機銃弾が装甲を叩き穴をあけてくるが、構わず突っ込みそしてあわや舷側に衝突というところで急上昇、すれ違いざまにプラズマヒートサーベルを横に向け一瞬だけプラズマの刃を生成し艦橋を焼き払い速度を殺さずにその場から離脱、あっという間に水平線の向こうへと僚機を引き連れて去ってしまった。目にも止まらぬ早業にどうやって旗艦の艦橋が破壊されたのか理解できずにいた水雷戦隊であったが、そんな彼らを更なる悲劇が襲った。

〈深度百二十、包囲北北西より敵水中用AL接近!数八!〉

 未だ生きているサルベーリンのCICが報告するが、旗艦をやられて混乱をきたし始めていた水雷戦隊にその情報は上手く伝達できない。本来対潜爆雷を投射しなければならない駆逐艦たちはその初動が大幅に遅れてしまい、ようやく動き始めた頃には既に第一射の魚雷群が艦隊を襲っていた。

 次々と上がる水柱、傾く艦体、滲みだす軽油……重装備でやってきた掃除屋の役目を負ったオースノーツ軍水中型AL部隊によって残った艦の殆どが沈められ、二十三隻いた第二〇一水雷戦隊も味方の航空部隊が駆け付けるころには駆逐艦ラボーンのみが航行できるばかりとなっており、そのラボーンも酷く損傷を受けて傾斜していた。 

 嵐のように過ぎ去ったオースノーツ海軍によって、一つの水雷戦隊が滅びた……

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