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鈴木零士

 「もうやだ、帰りたい。ゲームもない、アニメもない、ラノベだって…そもそもスマホさえないからソシャゲすらもできやしない」


 俺こと、鈴木零士すずきれいじは意気消沈していた。


 「百歩譲ってゲームやアニメなんかは仕方ないとする。にしたって、無理ゲー過ぎるだろうがぁぁああ!」


 そして、誰に聴かせるわけでもなく、黒鉄の木々が辺りに広がる森の中一人喚いていた。

 

 「いやー、ね!俺だって最初は叫ぶ程喜んだよ。これはまさか!あの有名な!俺が待ちに待ったラノベなんかによくある異世界転生じゃん!…って」


 「そんでもって特殊能力とか、魔法とか使えるようになって、美少女達助けてキャッキャッウフフな毎日が始まるんじゃねーかってさ…そんならゲームやアニメがなくなっても我慢できるかとか思ったさ」


 「まぁ、特殊能力ってかスキルも実際あったし、そりゃすごい能力でもあったさ。おかげでなんとか生きてこれたし、食料も手に入れられたわけだしな」


 「だがしかし!例えすげー能力があったところで、俺のはどっちかっていうと補助特化なんだよ!これで、どうやってここの悪魔的につえーモンスターと戦えってんだよ!死ぬわ!ドあほ!」


 「神も神だ!転生させるなら、もっとましなとこからスタートさせろよな!なにいきなり魔王の城一歩手前みたいなレベルのモンスターがいるエリアから始まるんだよ!会ってもないから、神がいるかもしらねーけどさ………ハァァ」


 零士は一通り、愚痴り終えるとため息と共に座り込む。


 「…正直、ここまで生きていられたのも運が良かったってのが大きいもんな…これからの事を考えるに不安しかないわ…いやマジで…」


 事の始まりは一日前、つまりこの異世界にくる前のことだが、とあるオンラインゲームのイベントが大詰めで三日間徹夜でプレイしてした。

 

 仕事はどうしたって?そんな瑣末なことには俺は縛られないのだよ!…すいません、調子にのりました、ただの自宅警備員です…。


 そんないつものように、自宅の警備を全うした俺は、三日ぶり睡眠をとることにしたんだ。


 で、起きたら俺の部屋が萌えててさ、あ…間違えた。こっちの燃えててね。まぁ、ある意味で間違ってはないけども。


 どうやら、俺の住んでるマンションの隣の部屋が火事になってたみたいで、起きた時にはもう手遅れだったっていう…。


 酸欠になって意識も朦朧として気づくと、森の中だったてわけさ。こりゃもう、ね。


 ピーンときたよね。あ、これ異世界転生だって!そんでもって、俺の知る限りのラノベ知識を活用してあれこれ試してみたわけよ。


 そのかいあって俺は、自分に特殊能力がある事に気づいて、今の今までなんとか生き残ってこれたわけだ。


 幸い、俺が目を覚ました場所はどうやら、モンスターどもの縄張りがちょうど三重に重なりあった場所みたいで、モンスターに見つかってもここまで逃げ帰れば追っては来なかった。


 多分、強さ的にも拮抗してるぐらいなんだろうな。全部推測だけど…じゃなきゃ、俺が無事な理由がわからん…。

 

 ただ一つ言えるのは、どうあがいたってここにいるモンスターには絶対に勝てるわけがないってことか。


 だって…レベルがおかしいんだもん…。だって、だってさ?目を覚まして最初に会ったモンスターのレベルが89って…絶望もんでしょ。



 しかも、俺はというと神様から最初からチート能力を授けられているわけでもなく、実はこの世界の重力は地球の半分以下だから俺はここなら超人ってわけでもない。


 いたって平凡なレベル8の人間…。


 救いなのは、補助にしかならないとはいえ…スキルが使えたってこと。


 レベルが1でなく8なのはもともとで、レベルアップしたってわけじゃない。理由はしらん。のっぴきならない事情があるのだろうってことにしとく。


 だからといって俺は――諦めたわけではない!ここがどんなに過酷な環境だとしても、俺が異世界に転生できたことは間違いない。


 スキルやレベルなんてあるわけだしな。


 つまり――ここで生き抜き、どこかの村や町、人が暮らす地にたどり着ければ、あわよくば異世界の美少女達とお近づきなれるチャンスもあるって事だ。


 せっかく転生して、補助とはいえSSレアと言ってもいい程のスキルは手に入れたのだ。


 「みすみすこのチャンスを逃してなるものか!」


 と、啖呵を切ったまでは良かった。


 でもね、いくらすごいスキルがあっても、今いる安全地帯から出ようものなら俺は…秒殺、いや瞬殺されるってことは変わりなかった。


 ゲームでもそうだけど、大きすぎるレベル差って…こっちもレベル上げするか、奇策でもないことにはどうしようもないわ…。


 結果として、移動もできず俺はそのまま薄暗い森の中、一夜明かすことになり、今に至るわけだ。


 この辺りには木の実が成っていたので、スキルで調べて食べられるかどうかはわかったし、しばらくは生きられるとは思う。


 他にも、傷に効く薬草とか色々あった。


 でも結局、ここから動けないというのは変わらず、ため息を吐きつつ俺は途方にくれていた。


 「どうしたもんかなぁ」


 そんな緊張の欠片もない様子の俺を尻目に、辺りがガサガサと騒がしくなり始める。


 「なっなんだ!?なんか来るのか!?」


 身構える零士を襲ったのは、巨大な熊や虫といったモンスターではない。


 それは聴く者へ恐怖を送る雷鳴の様な咆哮だった――。

 

 「ヴゥォォォォオオオオオオオ!!」


 ―――背筋が凍りついた。


 「…は、はは。なんだよこれ、体が動かねー…か、金縛りかよ…」


 その場で指一本動けなくなった零士は、その後も何度か聞こえる怒号に怯えていた。


 「――なんだよ、ただ声が聞こえただけだ。犬に吠えられた様なもんだろーーが……なのに…なんでなんでこんなにこえぇんだよ…」

 

 震えた体をなんとか止めようと押さえつける。


 恐怖、恐怖、恐怖――。平和だった、今までの日常ではまずありえない非日常。


 わかっていたはずだ。知っていたはずだ。


 だけど、人間は実際に命の危険を感じるまでは、まるで他人事のように楽観的に物事を考える。


 自分なら、大丈夫。自分には関係ない…と。目を背け、見ないようにする。


 そうしないと、現実をみるのが怖いから…。


 鈴木零士はそして、今頃気づいたのだ。いつ死んだっておかしくはないという状況に。


 「ハハ…俺、マジでここで死ぬのか…?始まったばかりで、何もできず…?」


 いや、今頃というのは語弊である。単純に見ないようにしていただけだ。


 自分がどんなに頑張っても、虫けらのようにいつでも自分は殺される状況下にあるその事実を…。


 「…ざけんな、終われるかよ。まだ…まだ美少女にもあってない!ケモ耳も!エルフも!魔族だって!いるかわかんないけどさ!…だけど、俺はそんな夢にまでみた世界に…そんな存在がいるかもしれない世界にいるんだ!ここまできて、ようやく手に入れたチャンスをみすみす逃してたまるか!」


 それでも鈴木零士という男は、恐怖に負け動けなくなることよりも…単純に自分のまだ知らぬ世界を見たいという好奇心や欲望の方が打ち勝ち、すぐさま立ち上がることができる。


 諦めが悪く、欲望に忠実。それが鈴木零士という形作る大元であり全てと言ってもあながち違わないかもしれない。


 「そうだ…。異世界もののよくある俺つえぇぇーをして、女の子達を侍らせて気ままに生きていく主人公達…俺はそんな主人公を目指す!それまで死んでられるか!」


 こんな世界に来ても…いやこんな世界に来てしまったからこそ、そんな一般的な男の子が一度は憧れるそんな夢を、とても素直に欲望に忠実に遂行せんとしていた。


 「さてさて、とはいえあの咆哮はまずいな…。それなりに遠いっちゃ遠いけど、このままここにいてもいいものか…」


 ―――ゴォォォォォォォオオオ!


 悠長に考えている時間はないぞ!と言わんばかりに先ほどの咆哮がした方角から天にも届くかのような極太の火柱が見えた。


 「な、なんだよ、おい!…マジかよ、ファンタジーなのはわかるけど、あんなのくらったら簡単にお陀仏だよ。ここにはドラゴンまでいるってのか!?…うん、待てよ?」

 

 今日まであんな火柱見たこともなかった。モンスターがそんなスキルを使えるってこともあるかもだけど、この場合近くに村や町があったとしてその村人がモンスターと遭遇し、撃退の為の魔法を行使したのだとしたら…。


 「うまくいけば、起死回生のチャンスだ。村人に助けを求められるかもしれない!」


 ただし…モンスターが起こした火柱って線もあるが、きっとここで選択肢を間違えるともうチャンスと呼べるものはない気がする…なら、ここで黙ってても仕方ねぇ。


 「…行くしかねーよな」


 黒髪の青年は、決断する。そして今もなお轟轟と上がる炎の柱へと急ぐのだった。










 「スゲー熱気…それに焦げくせぇぇ…」


 到着する途中、火柱は消えてなくなってしまっていた。とはいえ明らかにその爪痕を残されていたので迷わず火柱が起きた場所を特定できた。できたのだが…。


 「ここ、だよな?…だけど…何も…なんだこれ?」


 火柱の出処にはモンスターがいたわけでも、村人がいたわけでもなかった。


 辺りはすっかり焼け焦げ、その中でも一際大きく円を描くかのごとくに焦土とかした地点。


 そこには、野球ボール程の水晶の様な玉があった。


 「ガラス玉…か?あっつぅ!あちち、ひぃ、ふーふー火傷するわ!」


 裏側の景色まで透き通る程透明なそれをなんとなしに触れたところ、思った以上の熱さに驚きながらも他にも何かないか、探し始めた。


 熱気はまだまだ残ってるけど、そんな事よりいったい何があったんだってくらい木々はなぎ倒されてるし、それにあれって…。


 「――っ!?マジかよ、あのカマキリ蜘蛛までいたのか!?逃げねーと!……っ…もしかして、いやもしかしなくても…あれ死んでるよな」


 零士の視線の先にあったのは見るも無残な姿へと変貌したモンスターの骸があった。


 「あ、あいつはこの辺で俺が見つけたモンスターの中でも一番強くてレベル155はあったはず…それがこんな簡単に死ぬのかよ……あぁくそ、うだうだしてられるか!要はまだ近くにその化け物がいるかもしれねーってことだよな…」


 モンスターの死骸を見た限り、どう考えても人が手を下した様には見えなかった。強いて言うなら――力任せに噛み砕き、引きちぎったかの様だった。


 「…早く逃げないとっ―――と?」


 すぐさま逃げ出そうとした矢先、はからずも視線が向いた先。倒れた木々に身を隠す様にうつ伏せになった小柄な黒髪の少年がいた。


 「…ひ、と?人だ!?やっぱいたのか村人!?いやいやそれよかまず、無事かどうかだよな。おい!大丈夫か!?――っ、ひでぇー傷だらけじゃねーか…けどまだ息はある。ホントはこんな時は下手に動かさないほうがいいんだろーが、このままここにいたほうが危険だし仕方ねぇよな。よいしょっと!」


 全身切り傷や打撲だらけ、血が滲みでていて痛々しい。そんな少年を背負い、零士は迷わず駆け出す。


 「死ぬなよ!ここにきて初めて出会った相手にいきなり死なれちゃ目覚めがわりーし!そもそも俺が困る!」


 そうして鈴木零士は少年を担ぐと、来た道を急ぎ戻ったのだった。










 


 


 「………――ッ……!?」


 体も手足も…指先にさえもまるで力が入らない。意識が取り戻した僕がまず感じたのは全身の倦怠感、疲労感、そして体中の激痛。


 これが満身創痍というやつなんだろうと以外にも冷静にそんなことを思いながらも、視界からだけでも情報を得ようと重い瞼開く。


 「…気絶…してたのかな…」


 依然として代わり映えのない木々が生い茂る森の中だった。ただそこには…。


 「――お、目が覚めたか!?あ、けどまだ動くなよ。不幸中の幸いなのか全身打撲と軽い裂傷ばかりですんでるとはいえ、十分ヤバイからな」


 「――ぇっ……人間?」


 「他になんに見えるってんだよ。ってか言葉は通じんのな、良かったよ言葉も通じなかったらどうしたもんかと思ってたし」


 僕の顔を覗き込み、そう言ってきたのは日本人によく似たというか、まんま日本人と言ってもいい容姿。


 黒目、黒の短髪、着崩した藍色の上下ジャージ…これを見ていくらこんな奇怪な森で出会ったとしても異世界人だとはとてもじゃないが思えない。


 「…君は――ッ―!?…」


 ここに来て初めて出会った同じ人間に、つい興奮して体を動かそうとして激痛が走った。


 「色々と話したい事があるんだろうが、それはこっちも同じだ。なんで、まずは体を少しでも回復させてからにしようぜ」


 「…わかった」


 

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