プロローグ
何も無い空間、ただただ広く真っ白な世界。
――無。
その言葉を表すのに、これほど相応しいものは他にないのではないかと思う。
あたり一面には、白、白、白、白、白。
ひたすらに、ただそれだけが…この世界の、この場所の、この空間の全てなのだと、雄弁に語るかの様であった。
そんな中、二人の話し声だけが響き渡る。
どちらも男性なのか、女性なのか、それさえも判断の難しい機械的、冷淡な声。
会話からは、何かの作業をしている様だった。
姿形などなく、360度、全方向から声だけが響く…。
それもその筈、彼らは、いや…彼らこそがこの『白』であり、この空間そのものが彼らなのだ。
いうなれば、この空間そのものが彼らの肉体であり、精神であり、彼らを形作る全てであった。
作業に区切りがついたのか、彼らのうちの片割れが疲れ混じりに声を発した。
「……見つけた。待たせたね、これでようやく始められるよ」
「今回は、あなたが単騎ですからね。厳選するのは当然です。だからといって、私が負けるわけではありませんが…。前回と同じように」
「さてね…今回は最後だからね。今までにない趣向も加えたからわからないよ?」
「あの保険の事ですか…。こちらにもメリットがありますから許可いたしましたが、あなたの思い通りになるとは思わないことです」
「だからこそだよ。予想もつかないからこそ…このゲームは楽しいんじゃないか」
「楽しい…ですか。私にはその感情はわかりかねます。私にとっては、ただ所有権を決めるためのものでしかありませんので…」
「…とはいえ、僕としても負けるつもりは毛頭ないよ。その為に、苦労してあいつを探し出したんだしね。僕の駒は強いよ。歴代で最強なのは間違いない。可能性としては考えてはいたけど…まさか実在するとは思ってはなかったから、僕自身驚いたよ」
「そうですか…。貴方の駒がどれほどのものなのか楽しみにしておきましょう。――では、準備は整いましたか?」
「…あぁ、駒は揃った。無駄話はやめて早く始めるとしようか――ボクらのゲームを」
「ええ、始めるとしましょう」
「「――Game Start」」
二人の奇怪な声が重なり、始まりの音が上がる。
そしてーーー賽は投げられた。