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『四季塔の約束』

作者: 先生きのこ

 あるところに「春姫」「夏姫」「秋姫」「冬姫」と呼ばれる四姉妹の女王様がお城に住んでおりました。


 女王様たちはそれぞれの季節を司る力をもっており、お城の外にある『四季塔』と呼ばれる特別な場所に順番に住むことによって国に季節をもたらす大事な役割を担っています。


 しかし、そこはとても神聖な場所で許可のないもの以外は入ってはいけない決まりでした。



 王女様たちの性格は似ていなかったものの、それはそれは仲良しで彼女たちが喧嘩をしているところは誰も見たことがありません。


 泣き虫だけど優しい春姫。

 やんちゃだけど元気な夏姫。

 口数は少ないけれど賢い秋姫。

 人見知りだけれど我慢強い冬姫。



 しかし、ところがある時。

 そろそろ冬が終わってもいい頃になっても寒い日が続き、一向に雪が止む気配は無くいつまで経っても冬が終わりませんでした。

 辺り一面雪に覆われてしまい、このままではいずれ食べる物も尽き、人も動物も凍えてしまいます。



 冬が終わらないことに気が付いた王様は冬姫に会うため塔に向かいました。


 塔に辿り着いた王様は驚きました。

 なんと四季塔は冬姫の力によって全体を氷漬けにされており冬姫に会うどころか中に入ることも出来なかったのです。


 そこで王様は塔の前に建てられた看板に気が付きました。

 そこには、


 【春姫が来たら外に出ます】


 とだけ書かれており、仕方なく王様は春姫を連れてくるため春姫の部屋へと向かうことにしました。

 そこで王様は言いました。



「春姫。冬を終わらせ春を迎えてくれ。このままではみんな凍えてしまう」


 けれど、王様の言葉を聞いた春姫はみるみる両目に涙を浮かべると泣き出してしまいました。

 それでも王様は冬を終わらせてほしいと何度も頼みましたが、春姫はわんわん泣いてばかりで全く動いてくれません。


 困った王様は国民に向けお触れを出しました。



【冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない】


 このお触れを見た街の青年は我こそはと立ち上がると早速、春姫のいる部屋へと向かいました。



「春姫。どうして塔を訪れないのですか? このままでは食べるものがなくなってしまいます」


 春姫は泣きながら言いました。


「私は冬姫にひどい仕打ちをしてしまい会わせる顔がありません。だから塔にも行けないのです」


 青年は驚きました。

 喧嘩をしているところを見たことがないほど仲良しな女王様たちが顔を会わせることができないと言ったからです。 


 

「冬姫に何をしたのですか? 教えてください」


 けれどそれ以降、春姫は泣きじゃくってしまい何を聞いても答えてはくれませんでした。

 困った青年は理由を聞くべく、冬姫の住む四季塔に向かいました。


 しかし、塔は分厚い氷で閉ざされており話すことが出来ません。



 そこで青年は、夏姫の部屋を訪ねることにしました。

 夏姫の力ならば冷たい氷を融かすことが出来ると考えたからです。



「夏姫。貴方様の力で氷を融かしてくださいませんか?」


 夏姫は言いました。


「いいでしょう。けれど、氷を融かすためには火を焚かねばなりません。火を焚くには落ち葉が必要です」

「分かりました。では、落ち葉を探してきます」


 青年は今度は秋姫の部屋を訪ねました。

 秋姫の力ならば、たくさんの落ち葉を用意できると考えたからです。



「秋姫。火を焚くためにたくさんの落ち葉が必要なのです。落ち葉をいただいてもよろしいですか?」


 秋姫は言いました。


「いいでしょう。好きなだけ持っていきなさい」

「ありがとうございます」


 秋姫が部屋の窓を開けると雪交じりの木枯らしと共に、たくさんの落ち葉がびゅうびゅうと部屋に入り込んできました。

 両手いっぱいに落ち葉を抱えた青年は秋姫と一緒に夏姫の部屋へと戻ると、三人で冬姫のいる四季塔へと向かいます。



 青年が塔のそばに落ち葉を敷き詰めたあと夏姫が落ち葉に火をつけました。

 すると、勢いよく燃え上がった炎の熱によって分厚かった氷はみるみる融けていき、もとの四季塔の姿に戻ったのです。


 塔の扉を開けるとその中で冬姫が一人で椅子に座って待っておりました。

 青年が中に入ろうとしたとき、夏姫と秋姫が言います。



「私たち姉妹は一人だけしかこの塔に入ることが許されてません」

「どうか冬姫を説得し、冬を終わらせてください」


 夏姫と秋姫からそう頼まれた青年はしっかりと頷き言いました。



「分かりました。任せてください」


 そうして青年だけが塔の中に入っていき冬姫に尋ねます。



「冬姫。今すぐ冬を終わらせてください。このままではみんな凍えてしまいます」


 冬姫は言いました。


「春姫はどこですか? 春姫が来なければ私は塔を出ません」

「春姫は貴方様にひどい仕打ちをしてしまい会わせる顔がないと言って泣いてばかりで外に出ようとしないのです」


 青年がそう答えると冬姫は不思議そうな顔をして首を傾げました。



「私はひどい仕打ちなど受けていません。私はただ、春姫と約束しただけです」

「約束とは、どんな約束でしょうか?」


 冬姫は言いました。



「次に春姫が塔を訪れるまでに王様に“ 私たち女王を一人きりで塔に閉じ込めておくのを止める ”と約束してもらうことです。それ以外は扉を開けてはならない、と」


 春姫と冬姫の約束を聞いた青年はお城に戻って王様にこのことを伝えました。



「王様。なぜ冬姫が塔から出ないのか分かりました。王女様たちは塔に入っている間、一人きりで寂しがっているのです。どうか四季塔を開放してください」


 王様は言いました。



「ならぬ。四季塔は神聖な場所。それゆえ許可の無いもの以外は入ってはならぬ。春姫にも同じことを伝えたのだ」


 青年は困りました。

 これでは冬を終わらせることができないと。


 王様の言っていることも間違っているとは思えない。

 けれど女王様たちを一つの季節が終わる間中、ずっと塔に閉じ込めておくことも可哀そうだと。


 どちらの意見も正しいと思えるだけに青年は悩みました。

  


 しかしそこで、青年はとある考えをひらめいたのです。



「では王様。冬を終わらせたときに欲しい褒美をあらかじめこの手紙に書いておきます。もし、無事に冬を終わらせ春を迎えたなら必ず褒美をくれると約束してくださいますか?」 


 王様は少し悩んでから、言いました。



「いいだろう。ただし、お触れ通りに冬を終わらせたらだぞ」

「ありがとうございます」


 そうして青年は春姫に会いに行き、手紙の中身を見せました。

 すると、これまで泣いてばかりで動こうとしなかった春姫は途端に泣き止むと笑顔で四季塔に向かったのです。



♢ ♢ ♢


 その後、とある国では長めの冬が去り少し遅めの春がやってきたという。

 そして変わったのは季節だけではありません。


 それまでの四季塔は神聖な場所として王様の命令によって、許可がない限り中に入ることは出来ませんでした。

 けれどその冬以降、誰でも自由に出入りできるようになったのです。

 四季塔に王女様は一人だけしか入れないものの、扉越しに会うこともでき手紙も届けることができるようになったのです。


 これには女王様も大喜びで毎日、人が訪れるようになったためもう寂しくはありません。



 こうして見事、冬から春へと季節を廻らせた青年には約束通り王様から手紙に書いてあった褒美をもらいました。

 その手紙にはこのように書かれてありました。




【 冬姫を春姫と交替させたなら国に住む全員に塔に入る許可を与えること 】


 その冬以降、一度も季節が狂うことはなくなり順風に季節は廻り続け、人々は幸せに暮らしましたとさ。



 おしまい


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― 新着の感想 ―
[一言] こう来るか! 面白かったです!
2016/12/16 13:35 退会済み
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