その目を開くとき 1 <マキア視点>
マキアは生まれつき、魔力が多かった。
何故か、人の魔力が見えるのだ。比べると、周りの人間はほとんど体内で循環してしまう魔力は、自分の場合、周りに漏れるほど。甘い香りをした其れ目当てに動物達が近寄ってくる習性が幼い頃からあった。
けれど気づく人はいない。魔力は普通の人には見えない、らしい。母親は魔女の末裔で、親友だと言う義母もマキアの特質にも寛容だった。
15歳になり、国立学園に招集された。断ることも出来たが、行った方が良いと義母の強い勧めで、マキアは重い腰をあげたのだ。
きらめく金色の髪に思慮深いグレイの瞳、童話のような誰もが憧れる王子様は風の噂で聞いていた。
マキアは身分が低いから会うことはないだろうし、学園のパーティーで一目見ることができれば良い方だ。けれどその日に、マキアはどうしても会いたい人が他にいた。
自分と半分だけ血の繋がった兄だ。
いるとは知っていた、名前も教えられた、でも会ってちゃんと話したことはなかった。普段から不機嫌そうにしている彼にとっては、きっとマキアの存在は目の上のたんこぶだろうけど。
それでも会いたかった。
だから探した。会場に見当たらなかったので、庭に出ているのかと思って。
たまたま、人の気配がしたので、そちらに足を向けた。
「誰だっ?!」
鋭い叱責と、数人の大人の視線に足は縫い付けられるように止まる。
剣に手を伸ばす人に震えた、生徒とは言え身分の低いマキアは処分にされる側の人間だ。自然と青ざめ、咄嗟に言い訳を言おうとしたが。
「やめろ。ただの通行人だ」
殺気立つ周りの者達を制したのは青年だった。月の明かりを受けて輝く金色の髪の青年が、振り返る。
「あぁ、驚かせてしまったかな。ちょっと人を探していてね」
思わず、悲鳴が出る。
彼の魔力も溢れるほど、そしてその声は心地良いものだ。
でも、ただ一つ禍々しい、その目を除いては。
「あ、…あなたの、」
「その目は…見えている…の?」
言ってしまった後に、しまったと口を手で押さえた。
驚愕の表情に、そして何処か傷ついたような雰囲気に、してはいけないことをしてしまったと後悔の念が沸き起こる。見るからに守られる者に対してなんということを。
「君には…、見えるのか?」
「え?」
「今まで一度も見破られたことはないのに…あぁ、ちゃんと魔法は発動している。ということは3歳の俺より君の方が、魔力があると言うことか」
「…え?」
茫然としていたが、正気を取り戻した青年が、悩むように顎に手をやる、仕草は優雅で洗練されたものだ。服も国の紋章が入っている礼服、言うまでもなくマキアより身分が高い彼は、どこか喜色さえ浮かべて独り言をつぶやいた。
今度はマキアの方が驚愕の双眸を金髪の彼に向ける。3歳で魔法を使い、それを今の今まで発動させている?そんなことが出来るのか、自分に問いかけても否しか返ってこない。
四六時中発動させれば魔力の枯渇が起きる、それでなくても、調整をし続ける気力が持たない。子供ならなおさら。
「そう言えば、君の名前は?」
「…マキア・バックナーです」
「マキアか。ふむ、良い名だ。私はアルフェンスだ」
「アルフェンス…様…?王子様?!」
「あぁ、気が付いてなかったのか。無理もない。…君にはこの目が見えるからな」
最後の言葉は、護衛に気づかれぬよう囁かれた。
そうだ、この国の王子の名はアルフェンス・ダルビーズ、さらさらとした金髪の髪、王妃に似た聡明なグレイの瞳、人によってはダークブルーにも見えると聞いた。それなのに、その目は。
さすがにマキアだって馬鹿ではない、気になるが不敬になってしまう質問は置いといて、別の疑問を呟いた。
「でもどうしてこんなところに…」
「それを言うならマキア、君もだけど。君はもう立ち去った方が良い。私の心配性な友人が帰ってきてしまうからね」
にこり、と口角を上げて微笑んだ王子様、街によく出回っている姿絵とは少し違っていたが、気安く、そしてその目を持っていても、いや、閉じられたその瞳を知りたいとより一層掻き立てられるほどの圧倒的な存在感。
お辞儀をして、そそくさと立ち去る。律儀に小さく手を振ってくれた彼をしり目に見て、胸は早鐘のように打っていた。
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後2話だけ続きます。