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秘密を見る者

国立学園の入学式が終わり、そのまま新入生を歓迎するパーティーが行われる。学園内には全生徒が入れるホールと、給仕ができる者達も配備されていた。

特に、王の長子が入学されるとあって、今年度の入学生は優秀な生徒達が集められていた。

仕切りがある訳ではないが、護衛や将来の部下と言う名の友を引き連れたアルフェンスの傍に来てまで話しかけるような勇者は今のところいない。

ただ熱のこもった眼差しで見つめられるだけだ。


「ふむ、学園パーティーと言っても、今までとそんなに変わらないな」

「恐れながら、平民も居ますゆえ今までと全く同じではないかと」

「あぁ、そうだった。壁の花になっているようだけど、彼らたちも楽しんでいるかな?」

「礼儀作法を知らないので、緊張しているようですが、平民同士で会話を楽しんでいるようですよ」


にこりと、微笑んだ美丈夫はブリトン公爵家の長子、アイザック・ブリトン。流れるような銀糸の髪、黒曜石の瞳で見つめられたらどんな淑女でも顔を赤らめてしまうだろうと言われている。15歳にしてその色気はどうやって作られるのだろうか。


「そうか。アイザック、私のことは気にせず婚約者の元へ行ったらどうだ?」

「いえ、私は殿下のお傍に」

「リッツは私に何も言わず席を外しているがな」

「あのバ…考えなしはいつまでも子供で困ります」

「そう言うな、気心知れた仲だからだろう」

「殿下の優しさにリッツは甘えすぎですよ」


微笑みの貴公子を憤慨させるのは騎士団長の息子であるリッツだ、燃えるような赤髪にアメジストの瞳は常に獲物を狙う狩人のような眼差し、猫のような自由気ままな気質。こういったパーティーは苦手なようで、よく抜け出しては何をしているのかわからない。

そしてそんなリッツにアイザックは厳しい、声がワントーン落ちてしまって、眉間にしわを寄せている姿に、自然と笑みが零れる。


「今だけだ、こんな我儘が出来るのは。それこそ学園を卒業したら嫌でも逃れられぬ」

「貴族に生まれたからには子供でも我慢していますがね」


吐き捨ててしまったアイザックは、興味がなければこんなに感情を露わにすることもない。なんだかんだ仲良しなのだな、と勝手に納得したアルフェンスは一歩踏み出した。


「それもそうだな。退屈しているところだし、探しに行くか」

「殿下自ら探さずとも私が…!」

「野良猫を飼い猫にしてしまったんだ。飼い主らしく責任を取るさ」


アイザックは慌てたように隣に並ぶ、本来なら妃探しをしなければいけないのに、アルフェンスはリッツ探しを優先させた。その方が面白そうだからだ。

アルフェンスは学園で学ぶことはほとんどない、魔法も剣術も帝王学もすでに習得済みだ。呪いさえなければ本当に完璧な王子だった。








まずはバルコニーへと足を伸ばす。アルフェンス達は2階に居たが、バルコニーには階段がついており、中庭へと続いている。

護衛が先に危険がないか確認してくれるのを眺めながら、二人は喧騒から遠ざかっていく。


「噴水のところにいるかもしれません。行ってみてきますので、此方でお待ちください」

「アイザック、頼んだ」


少しばかり歩いたところで、アイザックは走り出す。パーティーの明かりがだんだんと届かなくなってきて、万が一を考えたのだろう。張り切った友に、頷いてアルフェンスは足を止めた。周りの者が自分を守りやすいように。

アルフェンスには誰にも負けない程の魔力がある、だからと言って慢心することはできない。影と呼ばれる暗殺者がアルフェンスの隙を狙ってくるとも限らないからだ。正攻法でなければアルフェンスにも負ける可能性だってある。厳戒態勢でいれば恐らく、物理的な襲撃も、魔法攻撃も、結界で全て防げるだろうが。


「え、どうして人がここに…?」


背後からかけられた、場違いにも可愛らしい声に、護衛の者達は一斉に顔を向けた。

完全に人気がなく、油断していたのだろう。アルフェンスは気配を察知していたが、ただの通行人に過剰に反応するのはどうかと思い、放置していた。


「あぁ、驚かせてしまったかな。ちょっと人を探していてね」


アルフェンスは護衛を制し、振り返った。声の主に、国の紋章が描かれている左手を胸に当て、他意がないことを示す。


「…ひっ!」


それなのに、返ってきたのは喉を引き攣らせた悲鳴。咄嗟に口元を押さえ、化け物を見たかのように目を見開いたのは、平凡な顔つきの少女だった。


「失礼。何をそんなに怯えて…」


一歩足を踏み出せば、少女も後ずさり、距離は縮まらない。

アルフェンスの擬態は完璧だ、若かりし頃の父の目元に似せ、色合いを母と同じくグレイに、そう見えるようにしてある。誰にも好かれることはあれ、平民に畏怖されることはあれ、ただ恐怖される存在ではないはずだ。

それとも、ただの少女にしか見えないこの子は王家と何か繋がりがあるのだろうか。


「あ、…あなたの、」


それなのに。

頭二つ分は小さい少女はしっかりと、アルフェンスの目に向かって、呟いた。


「その目は…見えている…の?」


その直後のアルフェンスは不覚にも記憶が曖昧だ、頭を殴られたような衝撃、生まれて初めての問いにちゃんと答えたのだろうか。






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