呪われた王子
ある国で王の子が生まれた。王と同じ金髪の男児だった。それは勿論、跡継ぎである。
だが、その男児には生まれた時からおかしな点が一つあった。
それは、男児の瞼と頬には糸のような物で目が縫い付けられたのである。
糸のような其れは禍々しい魔力によって出来ていた。王宮に仕えている魔法使いでも解くができなかった、つまりそれは“呪い”だろうと。
国のあらゆる祝福を受けた出産に、水を差された王は怒った。王妃はショックのあまり倒れた。赤ん坊だけは何も知らず、普通の子のように産声を上げた。
王の翡翠なのか、妃の灰色なのか、その瞳は何色なのか誰もわからなかった。
呪いを受けた子は歴代の誰よりも魔力が多く、才能があった。3歳にして、自分の見目が普通の人と違うとわかると、魔法で見た者の視覚を変え、そこに瞳があるかのように見せた。
何も見えない筈なのに、有り余る魔力で物の場所、人の動き、鼓動の数、いつの間にか全てを把握できるようになった。
幽閉されていた子からいつの間にか普通の王子として、いや、誰よりも王を継ぐ人物に相応しいとして迎えられた。王の子は一人しかいない。王が呪いを恐れた結果だ。
そして幼少期に体が弱く療養という形で幽閉されていたのも、醜聞を逃れていた。呪いを知る者は少ない。王と王妃、出産を立ち会った王家の信頼がある者達だけである。
だが、今更真実が流れようとも誰も信じまい。
10歳で既に4カ国語を流暢に喋り、あらゆる魔法を使いこなす、眉目秀麗な王子、アルフェンス・ダルビーズが呪われた子だと。
アルフェンスは生まれた時からハンデを背負って生きてきた。其れに対して自身は特にこれといった不都合はない。全て魔法で解決してきたからだ。
だが、年頃になるにつれ、一つだけどうしようもない案件が出てきてしまった。
妃選びである。
通常ならば近隣諸国の王女を娶るのが、この国の習わしである。アルフェンスの母もまたそうであったように。
小さい頃から決められた婚約は、余程のことがない限り、破られることはない。
アルフェンスには15歳になっても、未だに婚約者はいなかった。呪いのせいである。
王は恐れていた、呪いが子孫に引き継いでいくことを。
呪いが誰に対してだったのか判明することを。
だから、側妃を娶らず、新たに子を作ることもなかった。
だから、アルフェンスにも隣国の王女を宛がうこともない。
代わりに国立学園の留学生を増やし、魔力が多い者をたくさん集めた。