始まりは生まれる前から
この国で15歳になると魔力を持った者は、皆国立学園に行かなければならない。
そこで将来の伴侶を見つけ、友を見つけ、職業を見つけるのだ。
そこでこの国の王子は出会ってしまった。
生まれた時から魔力が高く、辺境の地からわざわざ呼ばれた平民の美少女に。
彼女の話は王子が今まで見聞きしたことのないばかり。
田舎の暮らし方、魔物の倒し方、軍事利用ではない、生活に密着した魔法の活用法、自立した女性の生き方に目を輝かせた。
王子もわかっていた、この時でしか平民の話を間近で聞くことが出来ないことを。
既に友と呼ばれる者も、婚約者と呼ばれる者も、周りにいたが、其れは全て王に与えられたに過ぎない。
だから身分をかざすことなく、学園ではただの生徒として色々な者達と接していた。
それがいけなかったのか、平民の少女は周りの貴族から嫌がらせを受けていたらしい。
らしい、と言うのは自ら気づいた訳ではなく、王子の婚約者から教えてもらった。
王子は悲しくなった。
自国の者同士がいがみ合う姿に。
そしてその場面を隣国の王女に見られてしまったことを。
周りと彼女が、王子が本当に好きなのは平民の子だと勘違いしていたことを。
王子はわかっていた、生まれ育ったこの国のための未来には、隣国との結びつきが大事だと。
だから自分の行動を詫びて誰よりも婚約者である隣国の王女を大事にするようになった。
それに一番驚き、一番悲しんだのは、他の誰でもない平民の少女だ。
彼女は絶望していた。
王子は身分で差別することなく、接してくれ、同じ目線で立ってくれる人、そして運命の出会いだと思っていたのに。
王子はある日を境に、少女を避けるようになったのだ。
そして誰よりも何よりも婚約者を優先するようになってしまった。
王妃になりたい、そんな大それた野望があった訳ではない。
ただ、初恋が実って欲しかった、それだけで。
何もしていないのに失恋した少女には、魔女の血をひいており、誰よりも多い魔力があった。
それを使いこなすだけの力もあった。
そして、初めての恋に心は暴走していた。
絶対に、許せない。
感情のままに魔法を使う。
その魔法は絶対に使ってはいけないと言われた、一族の禁忌であった。
結果はどうなるかは知らない。
この魔法を使ったら、この学園に、いやこの国にはいれないだろうから。