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『幽霊汽車と鉄道カメラマン』(脚本)

作者: 片喰藤火

こえ部ボイドラ用脚本

【タイトル】


『幽霊汽車と鉄道カメラマン』



【概要】

ボイドラ用短編脚本。

一人称の追想。

幽霊の汽車が撮られた写真の経緯を女性が思い出すお話。




【登場人物】(三人)


女性(語り)……


少女(女性の少女時代)……


鉄道カメラマン……




【本文】



女性「私は引っ越しの準備をするために、自分の部屋を片付けていた。

   普段あまり掃除しない私は、こういう時でもない限り大掃除をしない。

   だから、棚の上の方は埃だらけだろうな……。


   はたきで少し払ってみると、案の定埃が舞って、変な小箱まで落としてしまった。

   やれやれと思いながら散らばったガラクタを拾い集める。

   その中に「ゆうれいきしゃ」と平仮名で書かれた茶封筒を見つけた。

   懐かしさにかられて中身を取り出す。


   中身は1枚の不思議な写真。線路の上を汽車が走っている光景が写されている。

   何が不思議かと言うと、この写真を撮った時、既に路線は廃線になっていて、

   しかも汽車なんかが走っている時代は、とうの昔に終わっていたからだ。

   写っている汽車は、むろん観光用の汽車ではない。幽霊だ。

   この写真を撮ったカメラマンの人に教えてもらった。


あれは、小学校一年生ぐらいの時だっただろうか。

   友達と森ではぐれて、うろうろと彷徨っていたら、開けた場所に出た。

   そこは廃線になった線路だった。

   その脇で三脚にカメラを固定し、ファインダーを覗きながら、

   カメラを調整しているおじさんに出会った」



少女「おじさん、何やってるの」


カメラマン(以降カメ)「列車が来るのを待ってるんだよ」


少女「ここ、電車来ないよ。廃線だって、おばーちゃんが言ってた」


カメ「そりゃー知ってるさ」


少女「じゃあ何で」


カメ「電車が来なくても、汽車が来るからさ」


少女「きしゃ?」


カメ「正しくは、汽車の幽霊かな」


少女「ゆうれい!」


女性「幽霊と聞いた時、私ははしゃいでいた。

   未知のものへの恐怖心より好奇心の方が強かったから」


カメ「おい。お嬢ちゃん。線路の上は危ないから!」


少女「あぶなくないよ。ユウレイって透き通るんだよ」


カメ「幽霊だって轢かれたら大変だから、脇に寄りなさい」


少女「はぁ~い」


女性「それから私は夕暮れになるまで、カメラマンのおじさんと一緒に廃線で幽霊の汽車を待っていた」


カメ「今日は来ないかな」


少女「幽霊だから夜に来るんじゃないの?」


カメ「どうだろう。昔の時刻表を見ると、此処は夜には走ってなかった筈だから。

   幽霊だって時刻はきっと守るさ」


少女「ならもう来てもいいじゃん」


カメ「う……。その時刻に現れるかどうかは気まぐれなんだよ。

   ほら、もう遅くなるから帰りなさい」


少女「また明日来てもいい?」


カメ「来てもいいけど、待ってるだけで面白くないよ」


女性「私はワクワクしていた。幽霊に会えるかもしれない。

   そもそも汽車が走っている所を見た事がなかったから、幽霊でも何でも見てみたかったのだ。

   そんな気持ちで家に帰ったら、いきなり親に怒鳴られた。

   友達が私を探しても見つけられず、親に言って、みんなで探していたんだそうだ。

   でも、廃線での出来事は言いたくなかったので、只管に森で迷っていたと伝えた。

   

   次の日、学校が終わってから急いで森の中の廃線へ向かった。

   そしたら駐在所のお巡りさんが、カメラマンのおじさんに注意をしていた。

   なんだろうと思って、木の影から聞き耳を立てた。


カメ「いや~、まいったまいった。

   あ、お嬢ちゃん。こんにちは。

   そんな所でどうしたの?」


少女「おじさん、悪い人だったの?」


カメ「ちょちょ、おじさんは悪い人じゃないよ」


少女「だって、昨日はゆうれいの汽車を写真に撮るって言ってた。

   お巡りさんには風景を撮るって言ってた。

   嘘つきは悪い人なんだよ」


カメ「こまったなー。お巡りさんに言ったことも嘘じゃないんだよ。

   大人には、社会で真っ当だと思われている『本当』のことしか通用しないんだ。

   お嬢ちゃんぐらいの子には本当の事をそのまま本当に言えるんだけどさ」


少女「ふ~~ん……」


カメ「あんまし納得してくれないな……」


少女「とにかく悪い人じゃないならいいや」


カメ「そうかい。ま、信じてくれてありがてぇけど、あんまり大人を信用しすぎんなよ」


女性「カメラマンのおじさんは頭を掻きながら、カメラを調整し始めた」


少女「変なカメラだね」


カメ「変な。とは失礼だな。幽霊の汽車が撮れる特別なカメラだぞ。

   見た目は戦前のパール。

   小西六てぇ会社が出してたスプリングカメラだな。

   ここのレンズの部分が収納出来るんだよ。

   シャッターがここで、ここでピントを合わせる。


少女「……へぇ~」


カメ「カメラには興味がないみたいだな」


少女「うん。

   ねぇねぇ。なんで幽霊が撮れるの」


カメ「……。

   俺も最初はよくわからなかった。

   だがな、ファインダーを覗いていたら、汽笛が聞こえてくる時があったんだ。

   初めは空耳かと思った。他の連中に聞こえるか訊いても、聞こえないって言うしな。

   音が聞こえるけど、何にもない。

   でも気になったから、音が聞こえる周辺で待っていたのよ。

   そしたらな、目の前に現れたんだ。汽車の幽霊が」


少女「おぉー」


カメ「だけどな。情けないことに撮り逃しちまったんだ。

   その後はしばらく汽笛の音は聞こえなかった。

   そしてまた聞こえた時、今度こそはと思った。

   俺はしっかりとカメラを構えて、姿を現した汽車をすかさず撮った。

   そしたら汽車がすーっと消えていったんだ。


少女「撮ったら消えちゃうの?」


カメ「ああ。無念が晴れて成仏したのか知らねぇが、

   その光景を見た時、これが俺の使命なんじゃねーかって勝手に思ったわけよ。

   そして今回も汽笛の音を辿ってここまで来たのさ」



女性「私は汽笛の音が聞けるかどうか、ファインダーを覗かせてもらった。

   するとおじさんが言っていた通り、汽笛の音が聞こえてきた。

   どうやらこのカメラのファインダーを覗いていないと聞こえないらしい。

   だけどその音が聞こえる方角はばらばらで、遠かったり近かったりでハッキリしない」



少女「音が回ってる感じがする」


カメ「そうなんだよ。だから何時来るかハッキリしないんだ。

   気長に待つしかないな」



女性「それから日が暮れるまでねばったけど、

   その日も汽車の幽霊が来ることはなかった」



少女「今日も来なかったね」


カメ「昨日言っただろ。待ってても退屈だって」


少女「ちゃんと来るよね?」


カメ「来るさ」


少女「明日は学校が休みだから朝からくるね」


カメ「昼ご飯どうするつもりだ? 家近いのか」


少女「お弁当作ってもらう」


カメ「遠足かよ……」


女性「遠足気分だった事は確かだ。

   あの時は、親にお弁当を作ってもらう理由を考えるのが大変だったな。


   次の日は午前中から待っていたけど、汽車が現れることがないまま太陽は正午を報せていた。

   倒木に腰掛けて、ナップサックからお弁当を取り出した。

   おじさんはおにぎりだけだったので、おかずのからあげを一つ上げたら喜んでくれたのを覚えている。

   お弁当を食べ終わった時、ファインダーを覗いていないのに廃線の彼方から汽笛の音が響いた。



カメ「来たぞ……」


女性「おじさんは直ぐにカメラの下へ走り、私はおじさんの直ぐ後ろで撮影するのを見守った」


………………

…………

……


女性「蒸気機関車。

   幽霊なのに。それは本物だった。そうとしか思えなかった。

   煙の軌跡を宙に描きながら、重厚な音を立てて私の目の前を走り去っていった。

   その光景に圧倒されたのをよく覚えている。

   過ぎ去った汽車は、霧になっていくように薄っすらと消えていった。


少女「撮れた?」


カメ「撮れてる……筈だ!」


少女「直ぐに見れないの?」


カメ「これはフィルムだから、現像しないとダメなんだ」


少女「えー」


カメ「ちゃんと見せてあげるから。一週間後にまた此処に来な。

   そしたら特別に一枚あげるから。からあげのお礼な」


少女「ほんと? やったー」


カメ「やれやれ」


女性「それからの一週間は、落ち着かない毎日だった。

   家にあったデジタルカメラは直ぐ見れていいけど、

   出来上がりを待つのも、なにか、特別な事のように思える。


   一週間後、朝から廃線へ向かった。

   昼前になって廃線の彼方から手を降っておじさんがやってきた」


カメ「出来たぜ。ほら」


少女「ありがとう!」


カメ「よく撮れてるだろう?」


少女「うん!」


カメ「廃線になった線路でも真っ直ぐ、美しく走りやがる」

   嬢ちゃんもこの貴婦人みたいな大人になんな」


少女「きふじん?」


カメ「C57の愛称だな。

   汽車の魂が、このカメラの無念に共鳴して現れてくれたのか……。

   とにかく俺の仕事は終わった。

   さよなら、お嬢ちゃん」


少女「うん。バイバイ」



女性「こうして、この写真には幽霊の汽車が写されているわけだ。

   不思議な出来事だったけど、子供の私は不思議な事が不思議とはわからなかった。


   この不思議な写真も、今なら合成とかCGとか言われて終わってしまうかもしれない。

   だけど、この写真に写っている幽霊の汽車は、とても気高く見える。


   私はその雄大で、それでいて優美な幽霊の汽車が走っている写真を封筒へ戻した。

   写真立てに飾らずに、思い出と供に大切に仕舞っておこう。

   何処へ行っても真っ直ぐな心で走り続けられるように。



――終わり――



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