第3節
「……バカなことはいわないでくれよ」
「僕は穴が埋まるまで集めるよ、どんぐりをっ。そうすればまた彼女が帰ってくるかもしれないからねっ」
先ほどとは一変して高い志に目覚めた彼は、私のことなど差し置いて、さっそく羽ばたいていった。
あれを真の前向きというのだろう。
しばらく経ったある日、私は川岸で休んでいる鳥の彼を見つけた。
「集まったかい?」
彼は訴えるような目で私を見据えたあと、首をがくっと落として横に振った。
「あるにはあるけれど、ゾウムシの坊やに喰われてたり、毒があるやつだったりでうまくいかない」
私は彼の足元に転がっている不要のどんぐりを見た。
「第一目標が大きすぎるんだ。無理なものはどうにもならない。彼女もまだ未熟だね。それを正してやればいいじゃないか」
「彼女が見つかればそうしたいさ」
まったく彼女の奴め。
もしやすでに他の雄鳥に鞍替えしたのではあるまいか。
いやあながちあり得ない話ではない。
雌心と秋の空とはよくいったものだ。
そしてそれを体現するかのように、灰色の垂れこめていた雲が薄くなり、太陽の日差しが降ってきた。
「ほら、あそこなんか落ちてるんじゃないか?」
私は背の高い草むらを示した。
彼は頷いてとぼとぼと歩いて行った。
「あなたは優しいね」
そう言い残すと彼は草の隙間に入り込んでいった。
そのときだった。