第2節
橋ができた。
不安定で心細いが、夫人は止まらない。
棒の上をぐんぐん突き進んでいく。
服が汚れるのをまったく気にしていない様子だった。
反対にエドランさんは、せっかくお得意先に作ってもらったのに! とぼやいている。
「おい! やめろ!」
だが、エドランさんの震えた声は彼女に届くはずもなかった。
「カフカ君出番だ。何とかしてくれ!」
「そんなこと言われましても……元気でよろしいじゃないですか。見てくださいあのプリケツ」
「あぁ確かに昔は世話になったが――って、そんなことはどうだっていいッ!」
エドランさんは顔を真っ赤にして叫んだ。
そのときだった。
乾いた音が鳴った。
「あ、あなた!」
甲高い声をあげたのは夫人だった。
棒とて所詮は木の枝だ。
重いものが乗っかれば、行く末は折れるしかない。
夫人が川面に落下していく。
だが、不屈の精神を発揮して夫人は態勢を立て直した。
真っ二つになった枝が流されてしまわないうちに、浮かんだその枝を踏み台にして、チョコレートがある枝に跳躍した。
一先ず助かった。
なんという根性だろう。が、帰り道を失ってしまった。
「日頃からいってるだろ! ダイエットをしろって!」
「文句ならあの棒にいってちょうだい! もっと栄養つけろって!」
あれも木の幹から折れて棒となった枝であるから、栄養云々というのはナンセンスなのだが、私は余計な口は挟まない主義だ。
だからひたすら黙っていた。
「お、おい! 下を見ろ!」
エドランさんがますます慌てた。
夫人が乗っている枝の一部が、次々に川の流れに従って離れ始めていたのだ。
このままでは、いずれ枝全部が流されてしまうだろう。
夫人も危機を自覚したのか、背負っていた鞄に一ピースずつ切り取ったチョコレートをすばやく入れ始めた。
「その鞄を落としてくれるなよ! 中には大事な地図が入ってるんだ! 私が持っている地図だけじゃダメなんだぞ! 何で持っていったんだ!」
「チョコを入れるためよ。そんな簡単なこともわからないの!? 幼い子どもだって即答できる答えだわ」
「中身出してけ!」
「うるさいわねッ! 初めにいいなさいよ!」
「今気が付いたんだ!」
「ほんとバカね!」
「君こそ!」
「私、もう帰ります」
「いや待ってくれ。見捨てるというのかカフカ君。君が必要なんだ」
「はあ」
夫人は鞄いっぱいにチョコを詰め終えたが、それでも半分ほどだ。
惜しむようにチョコを眺める。
さりとて、水に浸かったチョコは気に入らないようで、夫人の諦めは早かった。




