第4節
まずい、と私は思い、固まった身体を動かそうとした。
だが、少女は私を捕まえる素振りなどは見せず、あくまで興味がないという信号を放ちながら私と同じ床に立った。
一度様子を見るため、私は少女から目を離さない。
都合のいいことに胸には名札がついている。
香住空乃と書かれていた。
私ははっとした。
「あなた、変わってるわね」
空乃の真意はわからなかったが、その一言は私をドキッとさせた。
続けていった。
「わたしの本知らないかな?……知らないよね」
直後、空乃はため息をつきながら私の隣に腰を降ろした。
床の四隅には崩れた段ボールが置いてあり、それをさっと引き寄せると、その上に寝転がった。
その手際の良さからいつもここに訪れているのだろうと思った。
「お母さんからもらったものなんだけど、やっぱりこんなところに持ってきちゃだめってことね。どこに隠したんだろう」
暫し空乃の一人事を聞く。
どうやら彼女の本が同級生によって隠されたらしい。
陽太の仕業ではないかと勘繰ったが、まだ証拠がない故、安易に疑うこともできない。
「まぁ、わたしはお母さんに似て普段愛想しか振りまいてないから、みんなから煙たがられて当然かもしれないけれど……遺伝子は運命を決めるのね」
空乃は私の顎の下を優しく撫でた。
私はその気持ち良さに、つい鳴き声をもらした。
空乃は私を抱いて、しばらく撫で続けた。
ふと、チャイムが鳴った。
もう次の授業が始まるらしい。
空乃は最後に私の頭に撫でてから階段を下りて行った。
そして昼休みになって、運動場で遊ぶ陽太の姿を見つけ、つけてみた。
すると、結城に渡されたコピー用紙を紙飛行機にして飛ばしていた。
私はその一枚をくわえて陽太に近寄った。
「何でここにいるんだよ」
私を見つけた陽太の手が止まった。
そのときだった。