第6節
ひとまず彼が生きていたことに胸をなでおろした。
青年は家族に見つからない場所としてこの倉庫に彼も押し込んだのだろう。
ただし一時的なことで、彼はきっとすぐに倉庫の扉を開けると私は予想した。
そして数分後、それは見事的中することになった。
外から青年の声が聞こえてきたのだ。
だが一つだけ外れていることがあった。
低い男の声が混じっていたのだ。
「どこへ行く! このバカ息子め!」
「もうやめてよ父さん!」
「何をいってる! この状況を作り出しているのはお前の方だぞ! Bなんて成績を取りおって! Bだぞ? B! なんて醜い単語だ!」
「他はAだからいいじゃないか! 何回も言わないでくれよ!」
「一回で聞くとは思えんからこうして言い聞かせているんだろ! 全てAじゃなきゃ意味がないんだ! 少しも気を抜くな! そんなことじゃ俺の跡もつげないだろう!」
青年は頬をぶたれたのか、おおきな音と共に倉庫の扉も揺れた。
背中がぶつかった証拠だった。
そして幾らか親子のやり取りが続いて、静かになったとき、光の線が床に伸びた。
それは扉が開けられたことを示し、徐々にその線の幅が広くなっていく。
黒い影となった青年が立っているのが確認できた。
「もう嫌だ。何もかも――僕は父さんに逆らえない……! クソッ!何でだ!」
彼は膝を叩きつけた。
そしてぐんぐん我々に歩みよると、また子犬の彼を掴み上げようとした。
私は叫んだ。
「今だ!」
彼女のリードはここに運ぶために外されている。
だから不自由なく走ることができる。
私たちは、青年を背にして倉庫の外へ駆けだした。
子犬の彼は母親の隣で、必死に嗅覚を頼りに四肢を動かしている。
彼女が先頭になって広い庭を走っていくと、柵のような玄関が見えてきた。
「なめやがって! 動物の分際で僕から逃げられると思うなよ!」
青年が鬼の形相を張り付けて迫ってきた。
柵の隙間は子犬の彼が通れるものだった。
私もくぐり抜けられるが、母親の彼女は無理だった。