第5節
「断ち切るんですよ。早くここから出るんです」
「それは無理です。私ももう長くありませんし……」
「あの子のためにも生きるんだ」
私は偉そうにいったが、到底リードを噛み切る力は持っていない。
だからといって何もせずにはいられなかった。
私がもし猫であることを受け止めていなかったら、リードを切る力を発揮できたのかもしれないと思った。が、すぐに首をふってかき消した。
「ったく、気味の悪い猫だな」
降ってきたのは青年の声だった。
私は自分の歯に神経を注いでいて、彼が接近するのに気が付かなかった。
母親の彼女は怯えることもなく、ただ自分をさらけ出すようにじっとしていた。
私は蹴っ飛ばされ、彼が持っていた網に囚われた。
そして、彼女ともども、庭にある倉庫の中に閉じ込められてしまった。
中には脚立やハサミ、籠、ビニール袋などが置かれていた。
庭の手入れで使うのだろう。
「私の不注意だ」
私はいった。
「いいえ、あなたもダメージを受けていたのでしょう」
それは精神的な意味だろうが、彼女の方が何倍も感じているはずだった。
私は彼女が生きることを諦めないように話をしていると、どこからか、子犬の鳴き声が倉庫の中に響いた。
「まさかあの子が……ねぇ、生きているの?」
彼女はすぐに起き上がった。
私も一緒になって薄暗い辺りを見回す。
そして、両目をつぶされた子犬の彼が、ますますひどくなった痣を全身に残して闇の奥から現れた。
「かわいそうに」
私と彼女は子犬の彼に駆け寄った。




