第4節
もちろん入ってきたのは青年だった。
イライラしたように足音を大きくして歩いている。
「もううんざりだッ! 僕だってBをとるんだ。それなのに……!!」
青年は机を思いっきり叩いた。
教科書類がその場でジャンプしそうな勢いだった。
俯いていた彼は顔をあげると、子犬を見やった。
目は見開かれ薄暗い虹彩は、けれど鋭い光を放っていた。
子犬を持ち上げる。
私は層一層窓に体当たりした。
青年がこちらを向いた。
そして口角を持ち上げた。
子犬の彼を振り上げた。
「何にもわかっちゃいない」
刹那、子犬は床に叩きつけられた。
何度も何度も何度も――
私は鳴き声を張り上げたが、彼の上下に動く手を止めることはできなかった。
ついに、私は目を逸らした。
これ以上、脳裏に焼き付けたくなかった。
無力な私は母親の彼女になんと説明すればよいだろうと、悩みながら重い足を送り出したときも、後ろからは僅かに青年の怒号が聞こえていた。
「僕は跡を継ぐことも偉い立場にも重役にもなりたくないのに! こっちから縁を切ってやる!」
私はなるべく遠回しに伝えたつもりだったが、母親の彼女は私が話し終わると、うなだれたようにお腹から倒れ込んだ。
おそらくあの子は殺されただろう――直接的にいったわけではない。
だが彼女は戻ってくる私を見た時から気づいていたのかもしれない。
まるで病気にかかったように弱弱しくなっていたのだ。
「何をしてるんです?」
か細い声で彼女は呟いた。
私は彼女を繋ぎとめるリードを噛みながら答えた。