第6節
アマリリスの低い声に、彼は気弱に頷いた。
傷だらけの彼には私たち大人の心配は届いていなかった。
そして彼はさっそく翼を携えて、高いところへ登って行った。
そして何度目かになる彼の失敗を前に、私はいった。
「君は過程を間違えている」
「何のだい」
「飛び方が知りたいのならまずは立ち上がって、歩いて走って登り、しまいには踊るくらいのことをしなければいけないんだ」
私は懲りずに彼に構った。
「そんなのまったく関係ないじゃないか」
「君は飛ぶために何をしてきた?」
「翼をつくった」
「それだけだろ」
「十分じゃないか」
「いいやもっと重要な過程を学ばなければならないんだ。例えばベルヌーイの法則は知っているか? 揚力は?」
「僕には難しいことはわからないんだ」
「それを学ぶ努力ができないのなら飛ぼうなんて考えるものじゃない」
「おじさんは飛ぶために必要な難しいことを知っているのかい?」
「いいや詳しくは知らない。12月号のニュートンで読んだだけだからね。でもそれでいいんだよ。私は空なんてこれっぽっちも飛びたくないからね」
「ちょっと待てよ……あなたは本を読めるのかい?」
「私は人の言葉がわかるからね」
「たまげたなぁ」
「それは私がしゃべりたいと思ったからなんだ。大切な友と会話をしたかったんだよ。私は願うばかりだったが、ある時ついに実行に移した。友人が運よく私に読み聞かせをしてくれたことも一因にあるが、それから私は猛特訓をした。実際話すまでにはたどり着けなかったが、言葉を理解することはできた。だから君も翼だけを作ったからいいと考えるのではなく、自分が飛ぶための理論と法則を知らなければならないんだよ。私が話すために人語の理論と法則を勉強したようにね。だから、飛べなかった人類が飛べるようになったのは、その過程を怠らなかったからだ」
私は上を見た。
青い空に浮き立つ白い雲の線をひっさげた、飛行機がいた。