第4節
大勢の前で失敗したことが相当悔しかったようで、彼はそれから空を飛ぶ特訓を始めていた。おまけに家出もしてきたらしい。
そんな彼とたまたま居合わせた川岸で、私は訊いた。
「何故空を飛びたいんだい」
「詳しい理由なんてないよ。飛びたいって思ったからさ」
彼の言葉を聞いた私はこれまた珍しく、少しばかりお節介をやこうと思ってしまった。
しかし、まず私は冷や汗をかくことになった。
彼が新しく改良した翼を背負って飛び出したところ、吹いてきた風によって軌道が乱れ、あの猛犬注意のプレートがある玄関に落下してしまったのだ。
この近くには塀や段差が多く、彼は練習場所に選んでしまいがちだったが、その反省をする間もないほど緊急事態だった。
玄関の内側に落下したハクビシンの彼は、歯をむき出しにした犬を前に尻餅をついていた。
だが、すぐに腰をあげると猛犬目がけて飛び込んだ。
喉元に体当たりし、犬は高音のうめきをもらした。
怯ませることに成功したが、さらに攻撃性を高めただけに過ぎなかった。
犬は頭を使ってハクビシンの彼を薙ぎ払うと、口を縦にあけながら襲いかかった。
彼はそれを一度は避けたものの、背負った翼の重さでバランスを崩し、その場に倒れてしまった。
鋭利な牙が彼に迫る。
私はついに飛び出そうとした。そのときだった。