第1節
最近瞼が重い。
私にしてはめずらしく寝不足なのだ。
原因は先日、
私がいつも通り、散歩をしていたときのことだった。
突然、私の視界を黒い影が横切った。
びっくりしてそれを追うと、ハクビシンが転げ落ちていた。
さらに彼の目の前の玄関には猛犬注意と書かれたプレートがかけられている。
うなり声のあと、奥にいた犬が首輪に繋がれている紐を引っ張りながら、施錠された柵の玄関扉にぶつかり、威嚇するように吠えてきた。
その気迫にハクビシンの彼は飛び上がった。
一目散に犬の死角に逃れた彼は荒くなった呼吸を整える。
「ここらは危ないから気をつけたほうがいい。しかし君の背中にあるものは一体なんだ」
私はハクビシンの彼が、脇の下に紐を通して鞄のように背負っている翼の形をしたガラクタが気になっていった。
「僕は空を飛びたいんだ」
彼は私と背中のガラクタを交互に見て答えた。
さきほど視界を通った影は彼が空を飛ぼうして落下した瞬間だったのだ。
「ほう。なかなか、いいことをしているね」
「だろう。おじさんわかってるじゃない」
羽の部分は拾い物の布を利用しているらしく薄い膜が張ってあるが、元来翼のないハクビシンがそんな小道具を用いたとしても、空を飛ぶことなどできるはずがないのだ。
しかしまだ青二才の彼が瞳をキラキラ輝かせる様を見ると、真っ向から否定をする気にもなれなかったのである。