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第1節
死んだ母親のいったことをよく覚えている。
「自分の姿を見るのはよしなさい」
だが幼かった私は川面を覗いてそこに映る自分の姿を見たかった。
「自分が何者であるかを知らなければあなたは何者にもなれる。この世界の巨人にだって」
それが人間だと気付いたとき、すでに母はいなかった。
私は母が好きだった。
だから言いつけは守った。
数日後に母は車にはねられて死んだ。
何日かして幼い私はネズミに会った。
名は知らない。
「僕は君の仲間だ」
私がそういうと、ネズミは無視した。
「僕はネズミだ」
「君は猫だよ」
ネズミの彼が私を見上げた。
彼の髭は数本ある中で一本だけがとても長く、おまけに先っぽがギザギザをつくるように折れていた。
私はそれがどうにも気になった。
さらに彼は小さな布きれの四隅を首元で結び、その中に何かをいれて背負っている。
「いいや僕はネズミだよ。チューッチューッッ」
幼い私はなり切っていた。
そんな私を見定めるようにネズミの彼は私を凝視しながら
「ほうっ、うまいうまい」
と乾いた口調でいった。
続けて彼は
「そこで見てみるといい。きっと腰を抜かすだろう。色々デカいじゃないかってね」
と、目の前に流れる川を指差した。




