9話
声が聞こえる。若い男女の声。とても、優しい声色、誰かを愛しむような抑揚。この声が僕に向けられているのならば、とても嬉しいなぁ。
声が、真上から聴こえる。さっきと同じ男女の声。僕の体が暖かい何かで囲まれている。まるで、この世の悪いものから僕を守るように囲っているように。
「この子の名前はなぁに?母さん」
少し声が高い、舌足らずな声が聞こえる。たぶん子供の声だ。
「この子は、ハロルート。愛称はハルよ。今日からあなたの弟になるのよ」
「僕の…、弟?じゃあ、僕お兄ちゃんになるの!いやったぁ!」
子どもは、とても嬉しかったのか。飛んだり跳ねたりしている。年は、4・5歳ぐらいの男の子。とてもやんちゃな感じがしたが、良い子に見えた。僕もそう様子を見て。思わず笑ってしまった。とても微笑ましくて、こんな弟が僕にもいれば、良いなって思ってしまった。
…あれ?なんで僕、こんな夢を見ているのだろう?
「あっ…!今、ハルが笑った」
そう言って、目の前の男の子も一緒に笑った。何が何だかわからないけど、この子がとても嬉しそうだから、僕も何も考えずに何度も何度も笑ってしまった。
幸せそうな子供の笑顔を見て、僕も幸せに感じてしまった。こんな、ほわほわする感情を感じなくなったのはいつ頃だろう。とても幸せで、この時が永遠に続けば良いと思っていた。
「俺の名前は、アキト。ハルのお兄ちゃんだよ」
***
偶然が重なって、前世の兄と同じ名前を持つ兄と一緒にまた暮らすことになった僕。
神様は、本当に存在するものだと僕は思ってしまった。
アキトと、また兄弟関係を持ち、今度こそは僕が望むような関係性を持ち、僕自身がやりたいと思ったことが出来るように、僕は、生きていこうと決断した。