8話
ゴォゴォ、と流れる川は、まるで矢みたいに素早く流れている。僕は、その流れに身を任せていた。どんどん、下へ下へと流れていく川。この流れはいったいどこまで続いているのだろうか?
力がわかない。
頭がボーっとする。
目の前がチカチカとし、夢を見ているかのように景色が現実味を帯びていない。ただただ、川の流れにより体が下降している。
この川の流れを逆流したいとも思わない。身を任せて、川が向っている所に行こうと思っている。どうせ、この川の流れから逃れる体力もないのだから。
川は夜のため、全体的に黒く、冷たかった。
「もう、疲れた」
学校に行くことも、ただ人に愛されたいがために努力することも、愛想を振りまくことも、生きていくことでさえ。もう何もかも、疲れた。僕は、このまま川の一部分にでもなりたいと思っていた。
でも、もしもう一度生まれ変われるなら。親兄弟を殺したり、愛されたいがために自分を閉じ込めたりしたくない。
僕を受け入れてくれる人の下で生まれ、自分がやりたいと本気で思えるものに対して努力をし、もらうだけじゃなくて誰かに対して愛を与えたい。
出来るのだろうか、そんな夢みたいなこと。
僕の手は、血で汚れていて、愛に飢えた獣のような人生を送ってきたのに。
自分の理想道理な全盛を送れなかったから、もう一度人生をやり直したいという我儘をだれが叶えてくれるのだろう。
「でも、もう一度人生を僕にくれるなら…」
悔いのない様に生きていきたい。自分の手を血で汚したくない。
愛され愛したい。自分のためじゃなくって人のために、生きていきたい。
そして、願わくば、もう一度親兄弟をしっかり愛していきたい。
僕は、自分の手で、両親と兄を殺してから思った。この行為はとても悲しいことだと。もっと他に手はあったはずなのに、兄から虐められずに近所で仲がいい兄弟だと言われるよな、誰もが羨むような関係性を作ることができたかもしれないのに。
母や父が望むような息子って一体何だったのだろう?僕は、彼らの期待に応えたことがあるんだろうか?
もしかしたら、彼らが望んでいた息子はこんな機械的な息子じゃなかったんだろうな。先生に期待をされるように、同級生にうらやましがられるように、ただひたすら勉強をするだけのロボットのような僕。そんなんじゃなくて、兄みたいな、人間味あふれる悪ガキみたいな息子が良かったんだろうな。だから、兄を贔屓し、僕を嫌うようなそぶりを見せたのだろう。
――あぁ、川がうるさい。
耳元でごうごうと流れる水の音を聞き僕は、目を静かに閉じた。
目を開ける体力がもうない。川の水がもう冷たいとは感じられない。
多分近づいているのだろう僕の死が。やりたかったこと、後悔したことが多くて頭の中がパンクしてきた。
この世に神様がいるならば、僕にもう一度命をください。
今度は、ちゃんと自分の人生に後悔をしたくない。死ぬ気で生きるから。
だからもう一度、僕にチャンスを――――。
僕はゆっくりと息を吐き、絶命した。