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6話

――血、血、血


あたり一面は、血で溢れ返っていた。鉄臭く、そして暖かい液体が僕の足元を濡らしていく。


「・・・ぁ、・・ぁぁ、ごっほぉ!・・なぁ・・・ん・・でぇ、お・・れが・・」


僕の足元にうずくまる塵虫ごみむしが何か言っている。

頭を抱えるように丸まった形になって、地べたに蹲っている。

実に、いい気味だった。笑える。


これが、僕を貶めていた、だと思うと。

こんな、ちっぽけな存在に僕は今まで、屈辱を受けていたかと思うと少し不服だった。

小さな僕にとっては、兄の存在が無意識のうちに脅威に見えていたことが分かった。


****


―――数秒前、僕の頭上にトロフィーが降りおろそうとされていた。

しかし、僕はこんな兄の手で自分の人生を終えようとはちっとも、思っていなかった。

僕は、兄に気づかれないように部屋の隅に立てていた、金属製の野球バットを握りしめ、そのときが来るのを待っていた。

そう、兄が完全に油断するであろう、僕を殺しにかかるときに反撃をすることにした。


実際に、兄は油断しており、野球バットには気付かなかった。例え気づいたとしても、自分なら僕一人を殺せると思ったのだろう。

本当に馬鹿な奴。僕が格闘技系を小さいころから習っており、素人相手に殺されるはずはないのだ。

兄よりも僕の方が素早く相手に気づかれないように、動くことができる。



そして、僕は兄に気づかれないように、兄よりも早く動き兄の息の根を止めようと、バットを振り上げた。



****


現在、僕は兄に対して長年の恨みを晴らすとしていた。完全に息の根を止めるのは、とてもつまらないし、満足しない。痛めつけて、僕が感じた以上の屈辱をこいつに、与えないと気が済まなかった。

僕は、足元で何かぶつぶつ言っている、兄を踏みつけて長年の恨みを晴らそうとした。しかし、そんな遊びも招かれざる客によって邪魔された。




バンッ!


勢いよく開いたドアから、現れたのは両親だった。


「五月蝿いわよ、いい加減にしなさい。次、大きな物音をたてたらこの家から追い出すわ・・・」


母親の言葉が途中で途切れた。僕の部屋の変化にようやく気が付いたようだ。


蹲る兄と血だまりが目に入っているだろう。ついさっき出てきた血は、まだ鮮やかで、生暖く、少しツンとした鉄のにおいがするのだあろう。視覚から聴覚から触角から人間に備わっている感覚を使い、僕の部屋の状況をただ茫然として眺めている両親に僕は、ニヤニヤしながらこう言った。


「これ、僕がやったんだ」


そう言いながら、僕は部屋の隅にあった野球のバットを強く握った。そして、今まで我慢していたことを全て吐き出す思いで、高く高くバットを上げて、微笑みながら、両親に最期の別れを告げた。


「潰れろ」


僕は思い切り、だけど絶対に狙いを外さないようにバットを振りおろした。


僕は、今日から、優等生の人生を歩むのを止めて、新しい殺人者としての道を歩むことになった。

でもそれでもいい、元々愛してくれない人たちを今日、殺すことができて良かった。僕は、満足し、少し誇らしげに両親と兄の息の根を確実に止めるように、何度も何度もバットを振りおろした。


それが、12月24日クリスマス・イブの夜に行われた、生まれて初めて僕が強い快感を覚えた日になった。



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