5話
――ヒュン
と、風起きる音が僕の耳のそばでなった。
「俺さぁ、本当は大企業の内定なんてとってないんだよ。来年から、俺の職業はフリータでさ、金が欲しいんだよね。金、金、金」
はぁ、と僕はため息をついた。呆れた、本当はどこの企業の内定もとっていなくて、親に見栄を張り、弟から金をとるなんて。
「わかった?俺の状況。兎に角、教えろよ、キャッシュカードの番号を!」
「っっ!」
再びトロフィーを僕の方へ振り上げてきた。今度こそ当たってしまうかもしれない。当たり所が悪ければ、死んでしまう。
僕は、必死だった。兄に殺されないようにするために、必死に逃げたり避けたりした。しかし、6畳程度の僕の自室では、限度があり、背に壁が着くような状態になっていた。
「教える気になったか、春斗」
――僕はなぜ、こんな屑人間にお金を与えなければいけないのだろう。
――僕はなぜ、こんなダメ人間に従わなければいけないのだろう。
――僕はなぜ、こんな底辺な人間に好きなようにやられているのだろう。
――こんな奴に、自分の努力で稼いだお金を渡すくらいなら
「死んだ方がましだな」
「じゃあ、死ね」
兄はそう言い、僕に大きな大きなトロフィーを頭上めがけて振り落した。
僕は、目を閉じた。
バイバイ、僕の人生。こんにちは、新しい僕の人生。
心の中で僕はそう思いながら、新しい自分の人生を向いいれた。