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4話

「来年から秋良あきらは社会人になるのか」

「もうそんな年になったのね。月日が流れるのは速いわ」


両親たちは、兄である秋良に嬉しそうに話しかけていた。兄も嬉しそうに両親たちに会話をしている。


「お母さん、うれしいな。秋良が大企業に努めることになって。近所の人たちに自慢できるわ」

「父さんも嬉しいぞ。息子が立派な人間に育ってくれて」


両親たちは兄のことを褒めちっぎており、一緒に夕食をとっている僕のほうには話しかけてくれない。

兄がいない時、両親たちはいつも二人だけで会話しながら夕食をとっていた。父は、上司の愚痴や同僚に対しての僻み、部下がいかに使えないのかなど話していた。母は、近所で起こっていること、近所同士の人間関係の愚痴や噂話などを主にしていた。僕は、そんな胸糞悪い会話を聞きながら黙々と夕食を食べることが、今までの日常だった。

しかし、今日は兄がいるためそんな会話は一切しなかった。両親たちは、兄に対してそんな暗い一面を見せることはない。多分、両親たちは、自分たちを目標にして生きて欲しく思っていたり、自慢の両親を演じようとしているのだろう。


―つくづく、馬鹿な両親だな。


幼いころは、両親たちに見向きもされなかったことに対して、寂しさを抱いていたが、今はそんな両親たちに愛されなくてよかったと思っている。


―自分たちにそんな価値がない事

―何でもできるつもりだけど、本当は何もできない、能無し

―近所では、いつも悪い噂しか流れていない


本当は気づいているのに気付かないふりをしている。

そんな両親の姿をいつも見ていたため、両親に対して何も望むものはなくなった。


―愛されなくてもいい

―兄より特別な扱いをされなくてもいい


だからどうか、僕の生きる道を邪魔しないでくれ。



****


夕食が終わり僕は、部屋に戻った。もうすぐ、センター試験のため勉強をしなければ。

苦手な英語を中心に今日は勉強をしよう。そう思いながら、僕は参考書を開いた。



午後2時になり、僕は手を止めた。

―もう、今日は寝よかな。疲れたし。


僕は、凝り固まった筋肉を少しほぐしながら布団に入った。



****


ガサ…ゴソ……、ガサ………ゴソ…


奇妙な音により僕は目が覚めた。

何だろう、まさかゴキブリが徘徊しているのかな?


寝ぼけた頭でそんなことを考えていた。


「……っち、どこだよアイツの財布は……」


っ!この声は!

耳障りな声を聴き僕は、完全に目が覚めた。


「金、金、金が必要なんだよ………。ほんとーにどこにあるんだよっ……」


ガサ……


「あった、あった。アイツの財布だ……。これでしばらくは、金に困んないなー」


僕はベッドから飛び起きて、兄の腕をつかんだ。


「何、やっているんですか。それ僕の財布ですよ。返して下さい」


僕は冷静に、兄に対して言った。

兄は、まさか僕が起きているなんて思っていなかったらしく、少し動揺していた。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し、にやにやしながら笑っていた。


「春斗、お前のキャッシュカードの番号教えてくんない?お前、バイトしていたんだろ、金溜まっているよな?」


「お前に渡す金なんて、1円もない。兎に角、俺の財布を返せ。今なら、何も見なかったことにするから」


「俺は金がないんだよ。今すぐ金が欲しいんだよ。だからわざわざ、実家まで帰ってきたんだよ。いいから、早く番号教えろよ」


「………」


僕は、心底この兄にあきれている。金がほしい?だからわざわざここまで来た?ふざけるな。そのお金は、僕が高校1年からためてきた財産だ。お前のためじゃない。僕は、兄に対して殺してしまいたいほどの怒りを抱き始めた。


「教えてくれないなら……」


兄が僕の部屋に飾ってあったトロフィーをおもむろに持ち上げた。

僕が中学校の時に取った陸上大会のものだ。規模が大きい大会で、たぶん全国大会の次に有名なものだったはず。そこで僕は、3位に入賞してトロフィーをもらった。3位のトロフィーでも大きく、全長約60㎝程度。

兄は、そのトロフィーを思いっきり持ち上げてこう言った。


「殺すよ」


兄はそう言い、トロフィーを僕の頭上に下ろしてきた。



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