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「きっくん可愛い~!」
「やだお菓子あげる~!!」
長めの金髪に高い鼻、日本人離れした顔立ちは整っていて綺麗だが笑った顔は花が咲くように愛らしい、そんなきっくんと呼ばれる美男子が上級生のお姉さま方にむらがられ貢がれている現場を見た瞬間、私は思わずかたまった。
校内をうろついていたら偶然にも見てしまったその光景。ああ、なんてこと。そうだよ、攻略キャラの三年生が赤羽会長と青角くんだけなんてことはないのに何を勝手に勘違いしていたんだ。
いきなり動きをとめた私をアヤノちゃんが不信そうな目で見ている。だがそんなのも気にならない程に私は気が動転していた。
私は赤羽会長や青角くんのことはあまりしらないが、「きっくん」のことはよく知っている。
前世(本当に前世なのかは知らないけど確定ということにしておく)で友人が耳タコだというほどに彼について話してきたからだ。
きっくん、こと黄牙キース。
きっくんという愛嬌のあるニックネームで皆から慕われている。
そしてイタリア人と日本人のハーフでその容姿はずば抜けて整っている。
懐っこい犬のような性格で、可愛らしい笑顔で話しかけてくる愛想のよいキャラで有名。お菓子やスイーツに目がなく、ファンの女の子や上級生のお姉さま方からの差し入れは生徒会ナンバーワンだ。
鬼なのにも関わらず人を見て食べたいという衝動にかられることがなくある意味一番理性がきいている。
しかし、だ。まさかこんな良いとこづくしのキャラのわけがない。
女の子からもらう差し入れのクッキーなどの食べ物の類のものは潰してゴミ箱にポイだ。
笑顔の安売りをし、一番生徒会メンバーで攻略しやすそうに見えるが実際のところかなりの難関と呼ばれている。
しかもだ、公式からの好きな食べ物などの情報にはお菓子とかいてあるし実際本人もお菓子大好きだよウフフなキャラを貫いているが実際のところお菓子が大嫌いらしい。
甘いものを少しでも食べれば反吐がでる勢いだとか。
つまりかなりのキャパクズなのだ。
それは赤羽会長や青角くんなどの同期が呆れるほどのものらしい。
友人はどうしてこんなゲス野郎の攻略ばかりに勤しんでいたのだ……。
さて、目の前には上級生お姉さまの集団にその中心にはきっくん。
どう切り抜けようか!!
私が唸っていると気づけば隣にアヤノちゃんがいなかった。
まさか!?
まさかと思いお姉さま方の方を向く。
するとまさかのまさかでそこにはアヤノちゃんがいた。そしてアヤノちゃんはハッキリとした口ぶりで「お姉さま方、よけてくださいます?」と言ったのだ。
アヤノちゃんかっこいい……!!けどね、すごいにらまれてるよ……!
うわあああと思いつつも私はアヤノちゃんの方へ行った。
「失礼します、お姉さま方」
そうしてアヤノちゃんの手を引いてお姉さま集団をすり抜けた。
少し歩いてちらっと後ろを振り向くとお姉さま方は大きな声で「なあに、あれ、感じ悪いわあ」といってケラケラ笑っていた。
アンタ等の方が感じ悪いわ!!!そう叫びたくなった。
お姉さま方はきっくんの方を向きながら私たちのことについて何か言っていたみたいだけれど、私はきっくんがお姉さま方の方を向かずにこちらを睨みつけているのを見逃しやしなかった。
最近の小学生って怖いなあ。
つくづく感じながらアヤノちゃんに大丈夫?と聞けばアヤノちゃんは俯いていた。
「気にしなくていいと思うよ。上級生なのに下級生の男の子一人に群がって」
その瞬間、アヤノちゃんはぼろぼろと泣き出してしまった。
えっ。私が泣かせてしまったのか?半ばパニックになりつつこういうときはどう対応すればいいのかうろたえてしまった。
「あっ、ああ、アヤノちゃん」
おろおろと尻すぼみする。
なんだよこの反応!!
まるで童貞じゃないか!!そりゃ童貞だよ!!
「ちっ、違うんですの。カナタさん」
しどろもどろになりながらアヤノちゃんが話す。
「その、さっきみたくわたくし勝手に行動することが多いから今までそういう風に言ってくれるお友達がいなくって」
「だからすごく」
「嬉しかったんですの」
アヤノちゃんは照れ臭そうに笑った。既に涙は引っ込んでいた。それとは逆に、私は嬉しくって、つい泣いてしまった。それを見たアヤノちゃんが焦って「カッ、カカ、カカカカナタさん!!」とさっきの私のようになっていたので面白くって笑ってしまった。