7
さて、隣の席ということもあり必然的に青角くんとは最低限の会話を交わさなければいけないのはまあしょうがないのだ。なので私もそれは妥協しているのだ。
しかしだな、赤羽会長と話す義務はないだろう。
私は比較的他人と関わりたくない。
元々インドア気質なのでどちらかというと家にひきこもってずっとパソコンに向き合っていたい。
しかしそうもいかないのがこの学院である。
大体ずっと部屋にこもっていたら体力が落ちるのは目に見えている。
今のうちに鍛えておかないともしも鬼化して理性が抑えられなくなった男子生徒に襲われたときどう抗えというのだ。
なのであまりインドアしすぎずに体を動かすことも大切だ。
ということで私は放課後の自由時間、何もすることがなかったので体を動かそうと思い前世でやっていた記憶のあるバスケをしていたのだ。
小学一年生のバスケなんぞたかがしれているがそれでも良い運動になったとは思うのだ。しかし問題はここからだった。
休憩をかねてベンチに座りタオルで汗をぬぐっていた時だった。アヤノちゃんがずっと動きっぱなしだった私に対してドリンクを持って「大丈夫ですの?」とまるで彼女のように心配してくれていたその時。事件は起きた。
いや事件というような大それたものではないのだが、私の頭に衝撃が走った。
物理的な意味で。
ごん、良い音をだし思いっきり私の頭にバスケットボールが直撃したのである。
かなりの勢いで頭にぶつかったバスケットボール。
ぐらりとふらつき、視界が歪んだ。
私は当たり前のように意識を失った。
次、目が覚めたとき私がいたのは保健室らしき部屋のベッドの上だった。
起き上がろうとした瞬間、眩暈が私を襲った。一瞬何故ここにいるのかわからなかったのだが、きっとバスケットボールがあたったせいで気絶でもしたのだろう。情けないしかっこ悪い。
バスケットボールが勢いよく頭にあたるという衝撃のせいもあってか頭がぐらついた。
起き上がろうと思っても起き上がれない状態で意識を覚醒させる。重たい瞼をしっかりと開けば曖昧にしか見えなかった部屋がしっかりと見えた。
ベッドの傍の椅子に誰かが座っている。
私はてっきり保健室の先生が何かだと思ったのだが予想は悪い意味ではずれてしまった。
アヤノちゃんはいいし寧ろ嬉しい。
しかしその隣に座っているのは、赤羽会長ではないか。
私は他の意味で眩暈がした。入学して一ヶ月もたっていないのになぜこんなにかかわらなければいけないんだ……。
「あっ、芦屋さん」
私が起きたのに気づいた赤羽会長が声をあげた。
やだ、もしかしてもしかするとあのバスケットボールって赤羽会長が投げたやつだったりするの?ていうかこの状況を見るにそうとしか言えないよね。
「さっきはごめん、俺のせいで」
赤羽会長の話を要約するとこうだ。赤羽会長は元々体を動かすのが好きでやることもなかったのでバスケに勤しんでいたと。
友達と共にゲームをしていたところ赤羽会長のパスしたボールが私の頭にシュートインしてしまったと。
なるほど、わからん。
というよりパスしたボールってことは赤羽会長悪くなくないか?受け取れなかった奴が悪いんじゃないか?なんて思ってしまった私だ。
本当に申し訳なさそうに頭をさげて謝る赤羽会長。
そしてその隣には明らかに怒っているアヤノちゃん。私はこの状況に涙の一つでも流したい。
「別にいいよ、気づかなかった私も悪いし」
「明らかに俺に非があったよ」
「カナタさんは、悪くないと思いますけれど」
ツンとした表情でアヤノちゃんが参戦してくる。やめてくれ。その気持ちは嬉しいし私も明らかに私は悪くないと思うのだが穏便にすませたいというかはやくこの場から立ち去りたい。よっこらせと体を起き上がらせ先ほどから頭を下げっぱなしで項垂れている赤羽会長の顔をあげる。
「赤羽く……」
気にしなくていいよ、そうつづけようと思った瞬間によぎる篠原さんとおっとり系京都美人さんの言葉。
あの二人は赤羽会長を様付けで呼んでいたな……。ふむ。
「気にしなくていいよ、赤羽様」
様を強調すれば赤羽会長は吹き出した。やだ赤羽家の御曹司が吹き出すなんて。
「様じゃなくていいよ、今まで通りくんでいいって」
「でもみんなは様付けしてるよ、赤羽様」
やめてと言わんばかりの表情だ。
しばらく赤羽会長は必死に様付けをやめてくれと懇願してきた。しかしそれをスルーして様と呼び続けていると黙りこくってしまいやりすぎたかと思い話しかけようとすると赤羽会長が再び口を開いた。
「そっちがその気なら別にそれでいいけどさ」
なんだ、グレたのか?
「芦屋様」
私の完敗だった。