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赤羽くん、と呼んでみれば彼はこちらを振り向いた。
その形相は恐ろしかったがすぐににこやかな笑みへと変わった。うわあ。外向けスマイルじゃないですか、やだー。
「どうしたの?芦屋さん」
赤羽会長は学院の裏庭にいた。学院の壁に寄りかかって俯いていた。なんで場所を知っているのかと言うといろんな子に聞いたからだ。まるで私が赤羽会長のファンみたいだ、勘違いされたら果てしなく困るなあ。
なので早々と用をすませて切り上げたいところなので、私は直球に聞いてみることにした。
「赤羽くん、会長やらないかもしれないって本当?」
そう聞いた瞬間、赤羽会長の表情は曇った。
ズカズカと赤羽会長の内面に私が踏み入れていいはずなどないのだが、しょうがない。内心謝りつつもそう聞けば赤羽会長は「なんで?」と質問に質問で返してきた。ちげーよこっちが聞いてるんだよ。
「小耳にはさんでね」
「そう。でも、それは芦屋さんには関係のないことだよ」
はっきりと確かに私は拒絶された。
彼の顔からは一切の笑みは残っていない。
「うん、関係ないよ」
特に何か言うわけでもなくただ肯定すれば赤羽会長は少しだけ、おどろいたようだった。いや本当私はこの件に関してまったくの無関係なのだけれど私の命が危ないのでここで引き下がるわけにもいかない。ので、遠慮はしない。
「関係ないけど現時点で巻き込まれてるからしょうがないんだよね」
「どういうこと」
「いや先生に赤羽くんをなんとかして説得してくれないかって言われた」
「……そういうのって黙っておくべきなんじゃない」
「赤羽くんどうせわかってたでしょ」
そう伝えれば「まあね」と短い返答。会話をつなげる気はないのか。
「何で迷ってるの?」
赤羽くんならきっとできるでしょうという言葉は飲み込んでそう聞けば「迷ってる、そうかもしれない、俺は迷ってるのかもね」という意味の分からない言葉が返ってきた。迷ってるの迷ってないのどっちなの?
「迷ってるでしょう、私はてっきり、赤羽くんは会長をやるものだと思っていた」
「奇遇だね、俺もさ」
「俺は会長をやると、思ってたんだ子供の頃から、ずっと」
そう言う赤羽会長は、まだ子供だと思うのだけれど。何をそんなに悩んでいるのかも何で迷ってるのかも私は知らない。
けどきっと赤羽会長を、会長にさせるためにはそれを知る必要があるんだろう。けれどそこまで深くかかわってしまえば元も子もないし、後戻りできなくなってしまう。
「じゃあやればいいじゃないか」
「そんな簡単な問題じゃない」
キッと、赤羽会長ににらまれる。鬼のような形相ですねと言いたいところだが実際赤羽会長は鬼だったな。
「じゃあどういう問題なのか言ってくれなければわからない」
「君に言う必要はない」
バッサリと切り捨てられる。うーん、むずかしいなあ。
「赤羽くんは言う必要がないと判断したかもしれないけれど、私は知りたいと思う」
どうせこの世界に生まれた時点で後戻りもクソもないから、と開き直った私は知ることを決めた。うん、まあ私が決意したのと赤羽会長が打ち明けるかってのは別問題だから結局どうこうできる問題じゃあないんだけどね。
「君が俺に関心があるようには全く見えないけどな」
ハッ、と笑われる。うん、正直言って興味はそこまでないし関心もない。
「大体、なんで、赤羽家だからって会長にならなければいけないんだ」
代々会長は赤羽家だった、それ以上の理由は多分ないと思うけれどね。
「俺は、そんな大それた奴じゃない。家も、学院も全部、面倒くさい」
少しずつ、赤羽会長の本音がもれはじめる。蝕むように、どろどろした感情がながれだしてくる。このゲームのキャラは基本クズやゲスなどと性格に問題がある人が多いけれど、彼らに限らず誰しもが二面性は持ち合わせているよなあ。それのギャップが彼等は激しすぎただけで。
「学院でどんなに俺がもちあげられたって、結局父さんの俺に対する扱いなんて虫けらと同様だ。あの人は、俺を自分の子供だって認めてすらくれない」
俯いているために表情はうかがえないが、きっと明るいものではないだろう。
「何年かぶりにかわした言葉がお前に会長が務まると思うのか、だ。笑っちゃうよな」
自嘲的な笑みを浮かべ、赤羽会長は顔をあげた。目元には隈ができており、疲れているのが目に見えてわかった。これが小学六年生のする表情か、子供が、こんな諦めきった顔を、するものか。
「全部、全部きらいなんだ。どこもかしこも敵ばっかだ。何をしても批判される。何もしても何かしらの理由をつけて誰かに必ず嫌われる。
そしてみんなが皆俺を枠にあてはめようとする。俺はみんなに、何もしてあげられないのに」
こういうときにかけるべき言葉を私は知らない。頑張ったねよく頑張ったね、そう言えばいい?そんなんで解決するほどの安い問題なのであれば解決済みだ。自分から本音をひきずりだしたくせに、適切な言葉が見当たらない。
そうだな。うーん。
「私は今から理想を君に押し付ける」
「へ」
「だからさ、簡単に考えてみてほしいんだ。難しく考えないで、押し付けた方に責任はあるしそれで君が失敗してもそれは君のせいじゃない」
「話がさっぱり見えないんだけど」
一息をおく。
こうしてやることが、今の赤羽会長にはいいのではないかと私が勝手に判断したのだ。赤羽会長は他の人からの期待、それとは裏腹に父親から何も期待されずにいるという大きな差の中で苦しんでいるーというのが妥当だろうな。
まだ子供なのに、重いものを背負いすぎなのだ。本来なら大人がもってやらなければいけないものを全部自分一人で持ち込んで、のくせに何も言わずニコニコして「どうってことないですよ」なんて軽く言う。
そして、彼は鬼なのだ。
なのに誰よりも、人間らしすぎた。
「だから、ただ単純に」
言葉を続ける。
赤羽会長は無言だ。
「君が会長となった、生徒会を見てみたいと純粋に思ったんだ」
それだけじゃ、君が会長になる、理由の一つにすらならないだろうか。
会長には、逃げ道をつくってやった上で認めるのが最善なんじゃないかなーと。




