30 / 赤羽八尋
全体的に見たとき、俺を嫌っている人間なんてほとんどおらず俺のことを好いている人の方が多いと自覚していた。
ただ集団の中で過ごしていくのだから当たり前なのだが、俺のことを特別嫌う人もいた。
卯月さんあたりは俺のことをよくおもってないだろうな。
はたまた俺に関心のない子もいた。
話しかければ当たり障りのない面白味も下心もなにも感じられない返答。こういう子もやっぱりいるんだなあと思いながら適当に会話をした。芦屋さん、だっけ。
いつだか俺が友達を遊びに誘ったことがあった。
一瞬間があいた後「いいよ」という言われた。絶対に快くは思っていないだろうなあと感じた。わかりやすい。
遊び終わった後に自分は用事があるからといってそそくさと戻った、ようにみせかけて物陰に隠れた。よくある話、影口や悪口ってそいつが去って行って見送った後に始まるものだろう。案の定俺と遊ぶのはつまらないとぼろくそにいわれていた。俺は別に楽しいけれど相手は何も楽しくないんだろうな。そう考えると悲しくなった。思わず俯いたが、気にしてなんていられない。赤羽家の一人息子がこんなことで気にしてたら先に進めないぞ、自分に言い聞かせてその場をさった。
うん、大丈夫。
その日のことは自分の中で無理矢理納得させて心の隅っこに置くことにした。
そして俺は芦屋さんや卯月さんと会う機会が何故か多かった。ちょくちょく話したりもした。芦屋さんの頭にバスケットボールをぶつけたあたりからだろうな。テストの順位とかも意外だった。1点でもミスできないな。
その後もパーティーでばったり会ったりと、いろいろあった。彼女との会話は少なからず退屈はしなかった。恋愛観、というのだろうか。お互い特定の好きな人がいるわけではないが、それについて話をした。
俺は俺が好きになった人には一番好きになってほしいと思う。皆そんなものだろうと思っていたが、芦屋さんはどうやら違うらしい。一番ならなんでもいいと言っていた。愛の反対は憎しみじゃないっていうしね、なんて笑っていた。随分有名な名言をひっぱりだしてきたな。
そういう考え方もあるのだなと心の中にとどめておいた。一番嫌い、ねえ。
しばらく関わらない時期もあったし、たまに会って会話をする程度だったのだが俺は彼女にとてつもないことをやらかした。
彼女に、大怪我をおわせてしまったのだ。気付いたら上から女子生徒がふってきて、潰されたと思えば次は俺が下にいた彼女をつぶしていた。
命に別状はないらしいが、大怪我は大怪我だった。顔に思いっきり傷がついていたし、不恰好にガーゼで覆われていた。自責の念にかられた。
彼女は気にしていないとはいっていた。いっそ最低だと罵られたほうがよかった。気にしてないと言っても女の子なのだから顔に傷でも残ったらどうするつもりなのだ。
次の日の朝彼女の部屋の前まで迎えにいったら必死の抗議をうけ追い返された。そして卯月さんの視線を感じた。瞳孔を開いて睨みつけられていたような気がしなくもない。
そうだ、この反応が正しい。芦屋さんはおかしい。なんで怒らない。へらへら笑ってる。そう思って悶々としてラピスに言ってみたら「八尋のことなんてどうでもいいんじゃない」といういたって適当でそれでいて核心をつく一言をいただいた。
そうだ、彼女は俺に無関心なのだ。




