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担任の先生は夏目樹と言うドジ気質な色素の薄いアッシュのクセ毛に黒ぶち眼鏡という愛嬌のある先生だった。
どうしてこの学院の教師をやれているんだと少し疑問に思うほどのドジっぷり。それに容姿は整っているのだからいかんせん髪がボサボサである。いや多分ストパーをかけてもなおらない程のクセ毛とかそういうのかもしれない。なんだか天パっぽいし。
さてはて、この先この人はやっていけるのかと悶々としていたところ先生の「とりあえず最初に席替えをしたいと思います」という声により現実に引き戻される。
自分の世界に入るクセができてしまっていていけないな。
席替えはいたって簡単。くじ引きである。あら席替えの仕方は案外普通なんだなあなんて感じつつくじを引いた。
「一番……」
一番前じゃねーか!!チクショウ!!
内心悪態をつきつつ席に戻る。女子の一番の隣は男子の一番である。男子の一番を引いた人物は誰だろうか。そこらへんの内気なモブとかだったら嬉しいのだけれど。女子からくじを引いてしまったので男子が引き終るのを待つ。
「全員引き終ったかな?じゃあ席移動してねー!」
先生の声と一緒に皆が席を移動し始める。私の席は一番前の一番端なのでわかりやすくて良いね。別に負け惜しみとかではないからね。
そそくさと席に着く。ああ、隣は誰になってしまうんだ。ドギマギとしながら座っていると隣の席の椅子が引かれた。
「よろしくね」
柔和な笑みを浮かべて私に挨拶をしているのはサラサラストレートな枝毛の一つもなさそうな青髪を三つ編みにして流しているのが印象的な綺麗な男の子だった。
おい待てこの純度100%の美形ですっていう顔立ちは絶対攻略対象キャラだろう。私の本能が言う。
自分の記憶力のなさを心底恨んだ。前世の自分よ、何故この乙女ゲームをプレイしていなかったのか。少しばかりの後悔が襲う。
だが攻略対象キャラということで間違いはないだろう。
「僕は青角青光石っていうんだ、君は?」
「私は芦屋カナタっていうんだ、青角くんよろしくね」
悪魔でも上品なお嬢様キャラで通そう。この学院にならどこにでもいるような。
お互いにこやかな笑みを浮かべ社交辞令の挨拶を交わしたところでほとんど全員が席につけていたようだ。先生がそれを確認したところこれからの予定などを話し始める。そこからは話がとんとん拍子に進んでいき、一通りの説明が終わり学院内の案内をされた。
一々学院の設備を説明していたらキリがないので省くとするが、凄まじいものだったということだけ言っておこう。
説明や案内がすべて終わった頃、夏目先生が口を開いた。
「じゃあ次は寮に行ってもらいたいと思います!」
ジャジャジャーンという効果音がつきそうな明るい笑みである。夏目先生元気だな。
軽い説明を受けながら寮に行く。私はてっきり学院と寮は別個だと思っていたのだがどうやら違うらしい。細め(とはいっても十分に広い)の通路が学院と寮との間でつながっていたらしかった。
その道を通り寮につき先生が立ち止まる。
「ここからはさっき言った通り、先生ではなく此方にいる初等科寮長の柊くんと幹さんが説明してくれます!皆きちんと言うこと聞こうね!」
本当この先生癒し系だな。つくづく感じながらもその柊くんと幹さんとやらの説明を聞く。二人は小学生にはとてもじゃないが見えない程度に大人びていた。柊くんって誰だよ……攻略キャラじゃねーだろーな……少しばかり疑いの目で見ていたら目があってしまったので反省し急いで目をそらした。なんだよ私ただの挙動不審じゃねーかよ。
そしてここからは男女別行動となる。
男子寮と女子寮で分かれ道となっているからである。談話室があり、そこから右を行くと男子寮。左を行くと女子寮となっている。あやまって女子寮に男子が入ってしまったら大問題だな。
別行動になってからそれぞれに部屋割りの紙が配られる。
私の部屋と同室の子は、と紙をじろじろと見る。
同室の女の子は卯月アヤノちゃんという子らしい。
なるほど、わからん。
卯月アヤノちゃんって誰だ。ただでさえ生徒数が多いのだ、わかるわけがなかった。
とりあえず私は誰かもわからない卯月アヤノちゃんの話は置いておいて寮長さんの話を聞こうと思ったのだが「ではこれからそれぞれ紙に書いてある通りの部屋に行ってください。既に荷物が置いてあるはずなので荷物の整理をしてきてください。今日はもう授業はないので5時まであたりに談話室に戻ってきてくださいね」な、なんだってー!
つまりまず卯月ちゃんと合流して一緒に部屋に行けということなのか、そうなのか。悶々としていると派手な金髪をカッチカチに巻きツインテールにしているツリ目が印象的なドギツイ美少女が私に話しかけてきた。
「芦屋さんですこと?」
これまた濃い子に話しかけられたなあ!!
内心冷や汗ダラダラだったが「そうだよ」と平然を装ってにこやかに返事をする。
まさかだとは思うが。
「わたくし卯月アヤノと申しますわ。同室というからには精々私に迷惑をかけないでちょうだいね!!」
私の平穏な学院ライフは案外攻略対象キャラでもなんでもない一介のドギツイ美少女に立たれたような気がした。