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寮のメンバーというのは初等科のはじめに一回と、中等科のはじめに一回、そして高等科のはじめに一回の系三回しか変わることがない。
なので私は今の今までずっとアヤノちゃんと一緒だし初等科である限りはアヤノちゃんがずっと同室だろう。
しかしもう高学年だ、中等科になる日もそう遠くはない。
つまり、アヤノちゃんと部屋が別々になる日も近いってことだ。複雑な心境だ。
それはまあ嘆いても仕方ないことだとして、そういえばなのだが男子生徒は全員鬼だということを思い出したのだ。
最近ほのぼの(とはいえないけれど食い殺されるなどの伏線ははられてないはず)していたのでスッカリ忘れていたのだが赤羽会長も青角くんも黄牙くんも桃鱗くんも伊達くんも皆鬼なのだ。
攻略対象キャラばかりに目をむけていたが、伊達くんなどにも十分に注意しなくてはいけないことに気づいたのだ。
その鬼に惚れられて食い殺される、というエンドもあるけれど気に食わないことをしたから食い殺すなんてこともザラにあるらしい。友達が言ってた。
しかし、そう思い返してみるとだ。
私、結構ヤバくないか?
既に黄牙くんにはある程度目をつけられてると思う。
シャープペン盗難事件とかきっと彼は覚えているだろうし。
それに低学年の頃彼が楽しく上級生のお姉さま方とお話をしているところを邪魔してしまったこともあるし。
少しばかり目立ち過ぎた、しかも悪目立ち。
これ以上なにかやらかすと本当に食い殺される日がきてしまうかもしれない。そう考えて、もう少し大人しくしようとも思ったが多分無理だ。
いくら私が大人しくしようと思っても問題をもって近づいてくるのはあっちのほうだ。うん、私悪くない。
けれどどうしようもないし、どうしようかなあ。なんてことを考えながら歩いているとぐしゃりという何かをつぶしたようなもの音が聞こえた。思わず音のする方向へ足を進める。
そして私は好奇心による軽はずみな行動に激しく後悔した。
「気色わりいブスが頑張っちゃってサ」
そこにいたのは、黄牙くんだった。
別に黄牙くんがいるだけだったなら何もいわないでUターンしたところだ。
しかし、その台詞と黄牙くんの手に持っているものに私の視線は釘づけだった。手に持っているのは可愛らしくラッピングされているクッキー。中身のクッキーはバラバラに砕け散っている。それを砕いたのは、間違いなく黄牙くんだろう。
そしてそれらをくれたのは、間違いなく彼のファンだろう。
私は見ちゃいけない黄牙くんの片鱗を見てしまったと思い、さっとその場を立ち去ろうと思ったのだが黄牙くんは私の存在に、気づいていた。
「見たでしょ」
そう言われてふりかえる。
何故私はいつも死に急ぐような真似をしてしまうのだ。
黄牙くんがどんどん近づいてくる、冷や汗が流れる。足が震える。くそう、わかっているのに体が動かない。
黄牙くんが距離をつめ、一気に壁にぐいっと押し付けられる。額に手をあてられて前髪を上にあげられる。頭を鷲掴みされてる気分だった。
「忘れな」
その時の私は鬼という生き物が記憶操作ができることなど知るはずなかったのだ。




