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「卯月さんに芦屋さん、こんばんは」
迷うことなくにこやかな笑顔で話しかけてきた赤羽会長。先ほどの青角くんと同じような挨拶をのべていった。そしてそのまま速やかにおかえりくださったら最高だったのだが流石赤羽会長、そうはいかなかった。会話を続けている。
でもやはり小学生、まだあどけないな。そう思ってじろじろ見ていると照れ臭そうに頬をかきながら困ったように笑って「なんかついてる?」と聞かれた。すまん、不躾だった。適当に会話を続けて赤羽会長はよどっかいけ、なんて考えているとアヤノちゃんがお父さんに呼ばれていた。アヤノちゃんのお父さんは赤羽くんと私に少しだけあやまってからそのままアヤノちゃんはお父さんにつれていかれ謎の人物を紹介されていた。誰だあれは。イケメンじゃないか。アヤノちゃんの顔がすごいひきつってる。ぱちりとアヤノちゃんと目があえば口パクで「頑張れ」といわれた。そうです。
だって2人きりで取り残されてしまったのだから。
卯月家と赤羽家ということで私はさっきまで私はぼーっとしているだけでなんとかやり過ごせたもののアヤノちゃんがあちらにいったいま私は赤羽会長と会話を続けなければいけない。しかし会長と話すことなど私は何もない!!会長もそうだろう?だから速やかにお帰りください。
「卯月さんが気になる?」
「まあ、気にならないといったら嘘になるかな」
だってはやくもどってきてほしいし、それに謎のイケメンをお父さんに紹介されてすごい苛立ってるようだし。
「卯月さんが戻ってくるまでの少しの時間俺だけで我慢してよ」
物足りないだろうけど、と言葉が続く。
こまったような、しゅんとしたような笑顔で。
なんだこの子可愛い……。
思わず私は「赤羽くんって時々可愛いよね」といらんことをいってしまった。そう言うと赤羽くんがぽかーんという表現が相応しい表情になった。口をあけて、目を見開いている。ちょっとあほっぽいと思ったけれど流石にそこは自重して言わなかった。男の子に可愛いは禁句だったかもしれない。ていうかまず赤羽財閥の一人息子に私は何を言ってるんだ。馬鹿か。
「可愛いって言われたのは初めてだよ」
「だろうね」
「今度からは可愛い、じゃなくてどっちかというとかっこいいのほうが嬉しいかな」
そう言われたが赤羽会長はイケメンだとは思うがかっこいいとは思わないのだ。いやだって私精神年齢成人済みだよ?もしかっこいいとか赤羽会長スキッとかなったらだめじゃない?ていうか私の中でのちっぽけなプライドというか抵抗やうしろめたさがそれをおさえるというか、余計に赤羽会長をそういう対象として見れなくなってるというか。
そしてこんなことを考えている間私は随分黙りこくっていたようだったので急いで「あ、赤羽くんカッコイイー」と言ったら「そ、そんなに嫌なら別に言わなくてもいいんだよ」と盛大に勘違いをした赤羽会長がわりとショックそうに言った。うん、違う。ごめんね赤羽会長、君はきっとかっこいいんだよ!きっと!!万人受けするイケメンだよ!
「いや、うん。赤羽くんはかっこいいと思うよ。女の子にもモテるでしょう」
「でも俺に対する好きってきっとアイドルにむけるようなものと同じだと思うよ」
即答されてしまったしやけに核心をついた答えに私は何も言えなかった。うん、そうだと思う。赤羽会長が好きなんじゃなくて容姿端麗で運動神経もあって頭の良い赤羽財閥の息子が好きであって、そしてそのすきも恋愛としてじゃなくてほとんどが憧れを含んだものなんだろう。
「それならは俺はやっぱり、大勢の女の子に好かれるより誰か一人の一番好きになりたいかな」
いつの間にか赤羽会長の恋愛観についての話になっていたわけだが。それはきっと皆そうだろうなあ。一部は違うのだろうけれど。
「芦屋さんはどうなの」
「えー、私。うーん、そうだなあ」
少し考えてから再び口を開く。
「一番ならなんでもいいかな」
「えっ」
「嫌いでも好きでも大切でもなんでもいいから一番になれたらそれって結構なことだと思うよ」
「そういうものかな」
疑問をもったように聞かれたが価値観なんてそれぞれだと思う。私はこう考えているけれど、やっぱり一番好きがいい人はいるし赤羽会長はそうなんだろう。
「あくまでも私の考えだよ」
視野は広い方がいいし、物事はいろいろな面から見るべきだ。一番好きがいい人はそれでいいと思うけれど、一番っていうのは好きだけじゃないことを考えてみてほしいのだ。そう考えたとき私の場合、一番ならなんでもいいやという結果に落ち着いたのだ。うん、いい加減な性格だ。
「一番好きになられたらそれ以上はきっとないんだろうけど、その人が一番嫌いっていわれるような人間になることもきっと同じぐらい難しいよ」
その人が嫌がることをして嫌われることは簡単だがきっと容易に一番嫌いまでにはのぼれないだろう。
「だからそうなったとき、一番ならなんでもいいかなあって思っちゃってね」
そういう考え方もあるんだねと赤羽会長は呟いた後にじゃあ俺はこれでといって去って行った。
「卯月さんにもよろしくね」
「うん」
台風がさっていくってまさにこの感じだろうなあ。




