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今日はいよいよ入学式である。胸がドキドキと騒がしい。勿論、悪い意味で。
なんていったって私は詳しい年号やいつ頃攻略対象キャラたちが入学するかなどといった情報を知らないのだ。
つまり、もしかしたら攻略対象キャラと入学する時期が大幅にずれ関わりを持たずに一般の男子生徒だけに怯える日々という案外平和な日々が過ごせるかもしれないという期待。
しかし、そんな期待は入学式早々に、砕け散った。
入学式の席順というのは出席番号になる。男子一列、女子一列で男女隣り合わせになるわけだが。私の名前は芦屋カナタつまり、あ行で一番前の席だ。そしてその隣の席も必然的に出席番号一番の男子になるわけだが、それがなんと不運なことか。
赤羽八尋-人気キャラ投票不動のナンバーワンを誇る、紛れもない生徒会長となる予定の、彼だった。
見間違えるわけがなかった。
語彙力がないので残念ながら言葉で表現するのが下手なので申し訳ないのだが、鮮やかな赤髪に黒い何を考えているかわからないような深い目。瞳孔は赤く光っていて不気味だ。
詩人風にロマンチストに表現しようと思ったのにこの様である。ほとんど褒め言葉ではない。
私はなるべく隣を見ないよう前を向きながら背筋をピンと伸ばして座る。
初っ端からこんなスリリングを味わう羽目になるなんていやあビックリだよチクショウ!!!私は内心自暴自棄になりながらも席に座っていた。お願いだからこっちを見たりしないでくれよな!
周りは少しざわついている。まあまだ小学生だものな、当たり前か。
「あそこにいるのって……!」「ああ有名な御子息の赤羽様かしらね!?」「やだ噂通り見た目麗しい……」「お近づきになりたいわ」
なんていうマセガキ共だ……!後ろからコソコソと聞こえる話し声に驚く。
私は玉の輿を狙っているのであろう小学生軍団が恐ろしくてしょうがないよ……。こんな若いうちからそんなにはしゃいだらもたないよと元OLが忠告しよう。
「静かにしてください」
単調な教頭先生らしき人物の声が響く。その一言で話し声は止んだ。
私は純粋に驚いた。
教頭まで美形なんて、私は聞いていないぞ。
本当にこの学院は粒ぞろいで末恐ろしいな、私浮いてないか?なんてことを考えながら教頭の話を右から左に流していく。私は隣に赤羽会長(予定)がいることによって入学式の話を聞く余裕もクソもなかったのだ。そしていつの間にか入学式は終わっており、気付いたらそれぞれの教室へ行くようにと促されていた。
場所は変わって教室。
教室の広さに驚きを通り越してあきれてしまった。
なんて無駄に広いんだ。この教室一つ用意するのにどれだけの金がかかったのだろうか、考えると眩暈がしそうだ。前世が一般市民だった私からすればクラッときてしまう。まあ今はもうわりと金持ちに分類されるのでそこまでカルチャーショックではないのだけれどね。
最新設備が整っており、心地の良い学校といってしまえばそれまでなのだけれども。
いろいろな施設もあり、学院全体も広い。
そして学院とは別に隣に寮が建っているのだが、そのヨーロッパ風の凝った装飾にその広さといったらもう。
また制服だが、そのオシャレなこと。初等科、中等科、高等科と細かなデザインが違うのだ。
初等科は夏は黒のセーラーに白のスカーフ。スカートや襟には白のラインが一本入っており、三つ折りソックスである。鬼城生学院が京都にあるのもあってか、おしとやかだ。カーディガンの着用も許可されている。そして冬は灰のブレザーに黒のYシャツ。そして真っ白なネクタイである。正確にはネクタイなのは男子のみで女子はリボンタイになっている。スカートもネクタイと同じ白。またセーラーと同じくラインが入っているがラインの色は黒になる。三つ折りソックスはセーラーの時のみで黒、紺、白のハイソックスまたは黒のタイツが指定されている。一つ一つの装飾が凝っており、高級感が漂っているのだ。
中等科は夏は白のセーラー。初等科の頃は汚すこともあって黒だったが中等科ではその心配がないため白のセーラーである。清楚でなんだか危うい可愛いさがある。
スカーフの色は淡い緑。ラインも同様だ。また初等科と違うのは三つ折りソックスではなくブレザーの時と同じ指定ハイソックスかタイツとなることだろうか。
冬になるとブレザーと思いきやセーラーのままである。夏の時の白のセーラーを長袖にしたようなものだ。カーディガンを上に羽織る女子が多い。
そして高等科だが、高級感が初等科や中等科とは桁違いだ。
深紅のセーラーは不気味で何よりも綺麗だ。襟は黒くゴールドのラインが光っている。ネクタイやリボンタイは一見白に見えるが上品なクリーム色。スカートは黒く、此方もまたゴールドのラインが目立つ。
勿論指定のハイソックスかタイツの着用が許可されている。カーディガンもだ。
夏服は半そで、冬服は長袖とあまり変わりはない。
この制服は可愛いと女子生徒の間で大人気だ。私も気に入っていたりする。
余談はさておき、クラス分けだが私は運よく赤羽会長と同じクラスは免れた。しかし私は迂闊だったのだ。
赤羽会長に気をとられすぎて他の攻略対象キャラの存在を忘れていた。
しっかりとクラス名簿に書かれていた「青角 青光石」という特徴的なキラキラネームを見落とすなんて、一生の不覚だったのだ。