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よくよく見れば赤羽会長だけではない。
青角くんに黄牙くん、そして確かあれは桃鱗くん。なんと、攻略対象キャラ大集合だっただ。私は思わず苦笑いした。アヤノちゃんも苦笑いしていた。つらい。
もうパーティーから抜け出してしまいたいところだったが今日はアヤノちゃんが折角呼んでくれたのだ、早々に帰ることなどできるわけがない。
「気付かれなきゃいいよね」
ぼそっと呟けばアヤノちゃんはこくこくと頷いた。きっと私は遠い目をしているんだろう。
「そうは思いますけれど気づかないなんてことあるのかしら」
核心をついたアヤノちゃんの一言に私はまた絶望した。学院主催パーティーの時は赤羽会長だけだったし、なんとか気づかれなかった。しかし今日はどうだろうか、攻略対象キャラが大集合だし何より卯月家主催パーティーなのでその娘となるアヤノちゃんへの挨拶にくるのは確定だろう。つまり私はアヤノちゃんの金魚の糞のかのように隣にいるので必然的に赤羽会長と愉快な仲間たちと接触をもたなくてはいけなくなる。現実はいつも非情である。
「わたくしも大概だとは思いますけれど、カナタさんも大概好きじゃないですわよねえ」
アヤノちゃんがしみじみと言った。誰のことかはわかっていた。そんなアヤノちゃんの視線の先には赤羽会長と愉快な仲間たち。
別に嫌いなわけじゃあないのだ。
黄牙くんは存外苦手ではあるのだけれども、赤羽会長や青角くんはさほど嫌いじゃない。桃鱗くんはまず話したことがない。
人としては今のところ好感がもてているしただ単に彼らと関わるとろくなことがおきないと思っているから自分から関わりを持とうとしないだけなのだ。
避ける、とまではいかないが好んで関わろうとは思えない程度の距離だ。アヤノちゃんの場合は間違いなく嫌いに分類されているんだろうな。
「嫌いじゃないんだけど、関わったら女の子の視線とか痛いよね」
「それはまあそうですわね、実際殺意がまじってるんじゃないかというぐらいの視線を感じましたし」
きっとアヤノちゃんは黄牙くんととりまきのお姉さま方のことを考えているのだろう。私もだ。
二人揃って悟ったような表情をしながら雑談していると不意に青角くんが此方を向いた。ばちり、視線がかち合う。アヤノちゃんと私の両方を見て少し微笑む。ぞくぞくと寒気がした。今すぐにでも逃げ出したいと思ったが青角くんはこちらに向かってきた。アヤノちゃんも表情が強張っている。しかし卯月家の長女というプライドがあるのだろう。愛想笑いを必死につくろうとしている。しかしアヤノちゃん、笑顔がひきつっているぞ。心なしか眉間に皺がよっているようにもみえるよ。
「卯月さんに芦屋さんこんばんは」
きっちりとした正装は青角くんによく似合っていた。私はこんばんはとあくまでも笑みを絶やさずに答える。アヤノちゃんも優雅に微笑みながらこんばんはといっていた。眉間の皺も、ひきつった笑顔の面影もなく優雅に微笑んでいたので流石といったところだろうか。アヤノちゃんすごい。
「卯月さん、今日はパーティーにお招きいただいてどうもありがとう」
目を細めながら青角くんがにこやかな笑みを浮かべた。
社交辞令の笑みなのだろうけどこの笑みは反則だと思う、女の子はいちころでやられちゃうんじゃないかな~。いや、私もアヤノちゃんも女の子だけれどね。
「いいえ、そんな畏まることなくてよ。此方こそきていただいて光栄ですもの」
いつものお嬢様口調をくずさずに吐かれた言葉はきっと本音じゃあないだろう。
しばらく談笑してから青角くんはアヤノちゃんのもとを後にして父親らしき人のところに戻って行った。私は青角くんが去って行ったあと内心溜息をついた。アヤノちゃんも表情にはださないもののぼそっと「どっと疲れましたわ」と私とアヤノちゃんにしか聞こえないような音量で呟いた。
その後黄牙くんも挨拶にきたが特になにもなかったので割合しよう。これは予想外だったが。桃鱗くんは私がすこし席をはずしていた間アヤノちゃんにすませていたようだった。感想をきくと「好青年、っていう言葉がぴったりっていう感じでしたわ」といっていたので悪い人ではないんだろう。
問題はそのあとである。まだ小学生だというのに謎のカリスマ性を漂わせている彼である。雰囲気はまるで王子様だ。いずれ魔王様になるのだろうが。ああ、今から帰っていいだろうか。お手洗いでもいってこようかな。と本気で考え込んでしまうほどだった。赤羽会長は私たちの姿を見つけると迷わずに、こちらにむかって足を進めていた。
……かえりたーい。




