1-2 【討伐へ】
剣は
持たない、
買わない、
持たされない
結局、ウガンの討伐に参加する事となったが、作戦会議上の席順は端であった。
なるべくラグラン姫の視界へ入らないようにする、という近臣たちの配慮がうかがえる。
命を受けたのは輜重隊の防衛だ。
現地調達できるモノ以外を前線まで運ぶのがこの輜重隊の役目で、
我々の隊の任務はその防衛という事だ。
襲撃される危険がある敵地での食料や馬の飼い葉などの現地調達は別の部隊が行う。
輜重隊からそう遠くない所に味方がいる事も多いので比較的安全な任務だ。
いやはや自分向きであると思っていたところ、
「補給の任は大事ですが、勇気の足りないあなたにはぴったりの任務でしょう。
後方が好きなのでしょう。適材適所。
軍にも国にもいろいろな人材が必要ですね」
とラグラン姫様のお言葉をいただく。
おそらく嫌みなのだろう。
後方好きというのはたしかにそうだが、これには注意が必要だ。
意図せずに突出して攻撃参加してしまった会戦以来、
なるべく目立たぬよう、孤立した動きにならないように心がけてきたが、
ある時、あまり後方に居たために先遣隊の敗戦と、
それを助けようとした本隊の敗戦に気がつくのが遅れてしまい、
なし崩し的に退却する軍のしんがりという事になってしまった。
・・・これはほんとにしんどかった。
敵は調子にのって圧倒的多数で進撃をしてきた。
それをなんとかかわしながら、そしてほどほどに抵抗しながら少しづつ引いていった。
味方が残していった防衛拠点を次々に回りながら、
どうにか味方の要塞までたどり着いた。
あの時ほど、弓を打った事はなかったし、剣をふるった事もない。
そして、これからもないだろう。
なぜならしんがりなど2度とやらないと心に決めているからだ。
・・・そろそろ真剣に文官を目指してもいいかもしれない。
「いやはや、この春の時期にのんびり荷物とともに進むのも落ち着きますな~」
乗馬したまま大きく両手を広げて伸びをしながら、
そんな事を言っているのは副官のガトーだ。
戦場経験が豊富で見るからに頑丈そうなじじいだ。
初陣以来、世話になっている。
「本当にそうだな。ガトー」
「ここのところ、戦いに参加できない任務が多いので
剣も腕も錆び付いていないか心配ですな」
「実は剣を前の宿場に忘れてきた」
「なぬ!?
・・・がっはっは、さすがにクロス殿とはいえ、それはありえませんな。
もしそうであったら、武人が急いで取りに戻らずにこうしてのんびりしている
はずがありませんからな」
自分は戦闘時以外、指揮棒を軽く腰に挿しているだけなのだ。
この任務ではせっかくなので剣や銃などを輜重隊に置かせてもらっている。
宿場では部屋まで持っていくようにしているが、
そのため宿泊した部屋に置き忘れるということが何度か発生している。
我ながら困ったものだ。
だから、自分では十分ありえるということもガトーは知っているはずだ。
お互いに笑っていたが、ジョークですよね?とガトーは目で訴えかけてきた。
「ふっ。剣などなくとも、武人に必要なのは心よ。
心の剣があれば十分役目を果たせるものだ」
あまりに暇なので、このいい加減な話を続けるつもりだ。
「クロス殿の心の剣を見てみたいものですな。
もちろん私めはその存在を信じておりますぞ」
「残念だ。今回は輜重隊の防衛であるから見せる機会がおそらくないな。
ちなみに、剣は2本持ってきている。
宿の防衛を任せた1本以外に、もう1本は輜重隊に置きっぱなしだから、大丈夫だ」
ああ、この呆れたガトーの顔はいいな。
嘘はついていない。