1-1 【退屈で重要な会議】
やる気を見せることと実際にやるのは別のことだ。
自分はクロス・レンテンと呼ばれている。
退屈で重要な会議に参加していた。
一帯を納める王の姫は見目麗しい武人であった。
まあ、見ているだけなら本当にいいんだが。
「さて、ウガンの討伐には誰が勇気をみせるのかしら」
ここで我も我もと武人達は名乗りをあげる。
王の御前でもあるからはりきる所を見せている。
このノリについていけない。
たしかに王の前で名乗りを挙げてしまうとまぬけなことはできなくなる。
それを期待してあえてこの場で名乗りを挙げさせているのだ。
「クロス、あなたは怖じ気づいたのかしら」
さすがにここで
『はい、そうです』などとは言えない。
「いえ、私も席が余れば参加したいと考えております」
顔が逆の事を言っていない事を祈るだけだ。
「ずいぶん、消極的ね。武人の言とは思えないわ」
つまり勝ち気な姫なのだ。
おまけに武芸も達者でまあまあ利発でもあるらしい。
凹凸は少ないが見た目もなかなかなので、何かもったないという気もする。
「手厳しいですなあ」
思わず頭をかきながら答えてしまう。
実際、あまり堂々としているのもよくないだろうと思い、
少し場が悪そうな雰囲気を出す為に掻いている頭だった。
あまり使わない頭もこんな時には役に立つ。
「わたくし、あなたが剣を振るって活躍している姿を見たことがないのですけれど」
たしかに自分に剣の腕はなかった。それはその通りである。
「世の中、平和でよろしいかと」
「!あら。ふざけているのかしら。脳のめぐりが悪いのかしら。
あなたも他の将のように勇気をみせよ、と言っているのです」
ここで玉座に腰掛けた王は少しゆっくりとした口調で
「まあまあ、クロスが奮戦した姿をワシは覚えているぞ。
さる大会戦を勝利に導いたのだ」
「王、ありがたいお言葉なれど、それはおおげさでございます。
壊滅寸前まで前進した哀れな中隊長、というだけありました。
味方に助けられていなければここにはいなかったでしょう」
あれは思い出したくもないのだが、
後方での陣形整理の指令が出ていたのに気がつかぬまま、
戦闘行為を続け、気がつくと前々へ進み、
率いてた中隊を壊滅寸前にしてしまったのだ。
味方が助けに来てくれてなんとか助かったものの、無謀な前進劇だった。
軍勢ってのはある程度の規模で動き出したら
意外と他の行動へ急に変えるのが難しいんだよな。
途中からやばいことに気がついても結局前進しかできなかった。
ただ、会戦全般として敗色が濃厚な中、結果として突出した勇戦となったので、
助けに来た味方の活躍もあってがなんとか会戦に勝利した、
なんておまけがついてきた。
とはいえ、心底怖かったというのが正直な所だった。
怪我はすり傷程度だったが、落ち着いてから確認すると
傷の箇所は思ったより多かった。
・・
憮然とした表情で姫は言った。
「周りがよく見えていないので、そのまま前進するしか能がなかったのでは」
「さすがラグラン様、するどいご見識でございます」
その言葉を馬鹿にされていると感じたのか。
「クロス!あなたとは合わないようね!」
と返されてしまった。
まあ、指摘は合っているんだけどね。
姫の名前はラグラン・ローヴェ。
王自慢の姫だ。
この国では姫でも指揮を取る。それがいいのかわからんがね。
こうした会話の中、
あの会戦に参加して将達は同情してくれているようだし、
特に見下したそぶりは見られないが。
それを知らない者達はそうではないだろう。
王のお気に入りの娘であるラグラン姫に疎まれているというのは
昇進上かなり問題であるはずだが、
どうも私には闘いというものが性に合わない。
武人としての栄達はもう既にのぞむところではなかった。
平和にぼけっとほどほどに精を出して生きていくのがよいと思っている。
・・・たしかに武人として問題があるな。