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未知縷の物語

とある病室にて

 その少年と少女は、とある病室に居た。

 少年の名は苑野その 時雨しぐれと言った。

 少女の名はあずま 瑠璃るりと言った。

 時雨は、ベッドの横にある椅子に座っていた。

 瑠璃は、ベッドの上でたくさんの管に繋がれ、眠っていた。

 時雨のその姿は、ただ、ひたすら祈っているようだった。

 瑠璃のその姿は、今にも死んでしまいそうな程、弱々しいものだった。

 病室では、ただただ、点滴の落ちる音と、機械の機動音が響くだけだった。

 誰も、何も、全く動かなかった。

 そんな中、時雨は、あることを思い出していた。

 瑠璃と過ごした日々のことだ。

 瑠璃は、死にも生にも無関心な少女だった。

 時雨が瑠璃を見つけたとき、世界は大混乱し、生きながらえる術を人々は必死になり探していたときだった。

 一縷の希望にもすがり、必死に生きようとしているときだった。

 そんな世界の中、瑠璃だけが『どうでも良い』とばかりに、適当に曲を再生していた。

 そんな瑠璃を、時雨は『助けたい』と思った。

 なぜ時雨はそう思ったか。

 時雨は、昔の自分に似ていたからだろうな。と、思っている。

 何はともあれ、それが2人の出会いだった。

 それからずっと2人は一緒に居た。

 一緒に居るしかなかったという状況だったのもあった。

 いろんなことがあった。

 時雨は、苦しい事の方が多かったと思う。多分、瑠璃はそんなに苦しかったと思っては居ないと思うが……

 そんな苦しい中でも、楽しいこともあった。

 無関心な彼女も、笑ったことがあった。

 時雨はそれがうれしいと感じた。

 ここで時雨は現実に引き戻される。

 そんな彼女は、今、眠っている。

 そしてその命は、今、この時、消えてしまってもおかしくは、無い。

『意識が戻れば良いんだけれど……』

医師を兼ねている科学者の言っていたことを思い出す。

(お願いだから、早く、早く意識と取り戻してくれよっ……!!)

時雨がそう思い、おもいっきり目を瞑った時だった。

「ねぇ……」

聞き慣れた声がした。

 時雨は、ハッとし目を開ける。

 そこには意識を取り戻した瑠璃が居た。

 時雨は刹那の間夢かと思ったが、すぐに現実だと思い「良かった……」と呟く。

 そして、泣いてしまう。とてもうれしかったのだ。

 瑠璃は、それを黙って時雨の様子を見ていたが、

「誰?」

そう一言、言った。

「えっ?」


 ほんの少し後で分かったことだが、瑠璃は、何も、何も覚えていなかったのだ。

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