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ピクの紙ひこうき

作者: 中邑あつし

なんのへんてつもない小さな島。そんな島で、タロとピクは楽しく毎日を過ごしていました。


なにをするにもずっといっしょ。遊ぶときも、ごはんのときも。寝るときだってふたりはいっしょ。


だけどそんなある日、タロとピクは、ほんの小さなことで大きなケンカをしてしまいました。


タロは、ピクをたくさんきずつけました。ピクも、タロをたくさんきずつけました。


タロは、ピクにもう会いたくない。ピクなんかいなくなってしまえ。

そんなことを思ってしまいました。


そんなある朝、タロが家から外にとびだすと、外には大きな大きなかべができていました。


そのかべは、どこまでもつづいて、はてが見えません。

その、大きな大きなかべは、小さな島をふたつにわけてしまったのです。


タロとピクは、はなればなれ。ピクはかべの向こう。タロとピクは、はなればなれ。


タロはたくさん泣きました。ごめんなさい。ごめんなさい。

かべの向こうのピクに、なんどもあやまります。ごめんなさい。ごめんなさい。


タロは、ピクのなまえを呼びつづけました。なんども。なんども。

でも、大きな大きなかべの向こうに、タロの声はとどきませんでした。


タロは、たくさん泣きました。だいすきなピクに会えなくて。あやまりたくて。

そこには、タロの泣き声だけがひびきわたりました。



ピクとのたくさんのおもいでが、タロをかなしませます。

一緒にいたときのこと。たのしかったこと。おもしろかったこと。


タロとピクは、よく紙ひこうきを飛ばしてあそんだものです。

タロは紙ひこうきをとおくへ飛ばすのがとくいでした。

だけどピクはといえば、紙ひこうきを飛ばすのがにがてだったのをタロはおぼえています。


「そうだ」


タロはノートにてがみを書きました。そのノートをやぶって、紙ひこうきをつくったのです。


ケンカのこと。それをあやまりたい気持ちでいっぱいなこと。かべができてからのおもい。

ピクにつたえたいことはたくさんあります。


タロは、3にち後の7月6日の朝に、紙ひこうきでへんじをくれるようにと書きました。


タロの飛ばした紙ひこうきは、大きな大きなかべをこえていきました。

タロはよろこびました。これでピクは、てがみを読んでくれるはずです。


やくそくの日の朝、タロは紙ひこうきを飛ばしたところまで行きました。だけど、紙ひこうきはありません。


タロは待ちました。だけど夜になっても、紙ひこうきが飛んでくることはありませんでした。


「きっと、ピクはひにちをまちがえたんだ」


タロは、つぎの日もおなじばしょに行きました。だけど、紙ひこうきはありません。つぎの日も。そして、つぎの日も。

だけど、タロのもとへ紙ひこうきが飛んでくることはありませんでした。


タロとピクは、はなればなれ。ピクはかべの向こう。タロとピクは、はなればなれ。


タロはたくさん泣きました。ごめんなさい。ごめんなさい。


そしてタロは、とうとう家から出なくなってしまったのです。なんにちも、なんにちも。

どのくらいのひにちがたったのでしょうか、家の外には、かべがなくなっていました。


タロはいそいで外に出て、かべの向こうがわへと行きました。ピクと会うためです。

だけど、さがしても、さがしても、ピクはどこにもいません。


タロはピクの家へ行きました。だけどピクの家には、ピクも、ピクのお父さんも、お母さんもいませんでした。

ものだって、ひとつもありません。ピクはもう、この小さな島にはいなかったのです。


タロはかべがあったばしょへ行きました。紙ひこうきを飛ばしたばしょです。

そこには、たくさんの紙くずが落ちていました。


よく見るとそれは、たくさんの紙ひこうきでした。

ボロボロになっていて、よく分からなかったけど、ピクの紙ひこうき。


ピクは、タロに紙ひこうきで、へんじをかえそうとしていたのです。

なんども、なんども。紙ひこうきを飛ばして。


だけど、紙ひこうきを飛ばすのがにがてだったピクは、大きな大きなかべの向こうに、紙ひこうきを飛ばすことができなかったのです。


落ちている紙ひこうきは、かたちがいろいろとありました。

かべの向こうに飛ぶように、ひこうきのおりかたを変えて、つくっては飛ばして、つくっては飛ばして。なんども、なんども。


ピクにとっては、島をふたつにわけたかべは、タロがおもっているいじょうに、とても、とても大きなものだったのです。


ピクのつくった、たくさんの紙ひこうきは、ちゃいろのじめんをしろく変えていました。

タロは、その紙ひこうきをひろげてみました。


―タロへ。

 ごめんなさい。だいすきなタロ。ごめんなさい。いっしょにいたいよ。会いたいよ。ごめんなさい。ごめんなさい。7月6日。―


―タロへ。

 どうしよう。飛ばないよ、紙ひこうき。ごめんなさい。

 ぼく、ひっこすことになったんだ。8月2日に。でもさ、それまでに、かべがなくなったら、いっぱい遊ぼうね。いっぱいいっしょにごはんたべようね。7月7日。―


ピクの紙ひこうきには、ぜんぶ日づけが書いてありました。

ピクは島をはなれるその日まで、なんども、なんども紙ひこうきを飛ばしていたのです。


タロは、なんにちも泣きつづけました。なんにちも、なんにちも。


タロとピクは、はなればなれ。ピクはうみの向こう。タロとピクは、はなればなれ。


そしてタロは、もうとどかないピクへの紙ひこうきを、うみの向こうがわへと飛ばしつづけるのでした。



大人になったら、会えたらしいですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝見していたのに感想が書けなくって、すみません。 案外、現実にもこういうことは有り得るかな……と思いながら読み進めていました。 どちらも心を互いに残したままで時間が経ってしまう。そして、そ…
[一言] 拝読させていただきました。詩のように繰り返されるフレーズがなんとも残るものがあります。 後悔しているのは二人とも同じ。なのにすれ違ってすれ違って、誤解を残したまま別れていたことが発覚したとき…
2012/01/02 21:29 退会済み
管理
[一言] 確かに後味は悪いですが、胸を打つ物がありますね。 後悔先に立たず、覆水盆に返らずといった所でしょうか。 執筆お疲れ様でした。これからもがんばってください!
2012/01/02 19:44 退会済み
管理
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