表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五話『果たされた約束』

……暑い。林の中とはいえ、陽当たりの良いこの場所は暑かった。それでも彼女の前から離れるわけにはいかない。俺は“約束”を果たしに来たのだから。

……お前がいなくなってから、俺は抜け殻だったよ。大学もつまらなかった。

そんな時に、俺は今の奥さんと出会ったんだ。

すべてが嫌になり自暴自棄になっていたあの頃。

あいつは俺を癒してくれた。お前を失い絶望していた俺に手を差し伸べてくれたんだ。俺は悩んだ。

あいつに心惹かれていく自分が、すごく卑怯に思えたんだ。

お前の身代わりにあいつと付き合うような気がした。

だから、俺はあいつにお前の事を言った。

でも、あいつはそんな俺を受け入れてくれた。

それがきっかけで、俺はあいつと付き合う事にしたんだ……。


(……あれから俺もいろいろあったけど、今は幸せに暮らしてるよ。

今なら、あの時の“約束”が果たせたと言えるよ。

どうかな?果たせたと思うか?)

俺は小さくなった彼女に問いかける。

……風が出てきた。

墓前に添えたひまわりが揺れる。まるで頷くかの様に頭を振るひまわり。

(……果たした、と受け取ってもいいのか?)

緩やかな風が俺の体を包む。

ひまわりは静かに揺れている。

何故か、俺はそれが彼女の答えだと思えた……。


都合の良い考えかな?

でも、彼女ならきっと笑顔でこう言うんだ。

「……約束、果たせたよ。私の分まで、幸せになってくれてありがとう。そして、来てくれてありがとう……」


だって、お前は俺の中にいるんだ。

今になって思い出したよ。

俺は彼女との思い出を胸にしまって生きて来た。

一緒に生きて来たんだ。だから、お前の言いたい事はわかるよ。

なんてことない。

わざわざ会いに行かなくても、答えは自分の中にあったんだ。

「……俺って間抜けだなぁ。はははっ」


笑いがこみ上げてきた。

そうだよ、自分が幸せかどうかなんて、人に聞いてもわかるわけない。

「……でも吹っ切れたよ、ありがとう。そして、さようなら……たぶん、もう来ないよ」


俺は小さくなった彼女に頭を下げた。感謝の気持ちを込めて。

最後に、もう一度だけひまわりを見た。

風に揺れるひまわり。そして彼女に背を向け帰る事にした。


……その時、一陣の風が吹いた。

「……もう帰るの?」


聞き覚えのある声がした。

忘れるはずがない、あの時と変わらない声。信じられない思いで振り返った。

「……会いに来てくれて、ありがとう」


……そこにいた。

彼女がいた!俺は目をこすった。彼女が、すぐ目の前にいる。

「……神様が、一度だけ許してくれたの……」


信じられない。

彼女がいる。これは夢か?幻か?驚きのあまり、言葉が出せない。

「……約束、守ってくれてありがとう……」


変わらない笑顔。眩しい程に優しい笑顔がそこにあった。

涙が溢れてきた。

「……会えて嬉しいよ。お前の口から、答えが聞けて嬉しいよ……」


俺は振り絞る様に言った。

口の中がカラカラだ。

これ以上、声を出せない。

せっかく彼女に会えたのに、これしか言えないなんて!

「……ありがとう。いつまでも元気でね、さようなら……」


そう言って手を振る彼女。

彼女の体が透けていく……変わらない笑顔だけを俺に向けて、静かに消えていった……。


……これは奇跡だ。

彼女が起こした、愛という名の奇跡。

まともに会話する事も出来なかったけど、俺は今日という日を一生忘れないだろう。

(……今日、ここに来てよかった。

そして、お前を愛してよかった。俺は、ホントに幸せ者だよ……)

彼女には心からの感謝でいっぱいだった。

彼女のおかげで俺は“約束”を果たす事ができた。

もしかしたら、あの出来事はすべて夢かもしれない。

俺はそれでも構わなかった。

この気持ちを胸に、これからも強く生きていける。

そう思えるから。俺にとっては“真実”なのだから……。

拙い文章でわかりにくい部分もあったと思いますが、最後まで読んで下さって本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ