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第三話『回想〜眩しい笑顔〜』

彼女の容態が悪化したのは二月の初めだった。

その日はちょうど大学入試だったので見舞いに行けない日だった……。わかっている事。

それは彼女の最期が近いという現実。

おそらく三月まで持たない……彼女の病気は一度悪化したら二度と回復しないのだ。

今までの患者も一月持たずに亡くなってきている。その現実が突き刺さる。幸い、彼女は意識を失わなかった。

一度失ったら二度と意識を取り戻せない事もあるこの病気、彼女は運が良かった。

俺は狂喜乱舞した。たとえ少しだけ悲しみから遠ざかっただけでも俺は嬉しかった。……奇跡というものは意外な局面でやってくるようだ。

彼女の両親も主治医も、そして俺も諦めていた。

彼女は近いうちに意識を失う、誰もが彼女の“限界”を感じていたのだ。

……しかし、彼女は元気を取り戻した。

もちろん病を克服したわけじゃない。

この病気は現代医学では治せない。

あらゆる治療も一切の効果を現さないのだから……。

それでも彼女は俺の前で笑顔を見せてくれる。

「……これって、奇跡だね?このまま回復しちゃったりして……」


彼女はそう言って笑った。

「……ねぇ、正人。私、桜見れるかな?できれば、夏まで生きたいなぁ……」


自分の名前を呼ばれて我に返る。

「……大丈夫だよ。きっと見れる。回復しないって言われても元気になっただろ?奇跡はまた起きるって」


あまりに意味の無いセリフだ。

こんなセリフじゃ気休めにすらならない。

俺は何を言っているんだろう。自分のふがいなさに腹が立つ。

それでも彼女は笑顔のままだ。

「そうだよね。奇跡はまた起きるよね」


彼女は手を伸ばして俺の手を握った。

暖かい感触。彼女はまだ生きている。その実感が胸を熱くする。

これ以上、眩し過ぎる彼女の目を見れなかった。

だから不器用な俺は彼女を抱きしめる事しかできなかった。

もっと彼女に俺を、生きている実感を感じてほしかった。

油断すると泣きそうだった。

彼女は強い。

“現実”の残酷さを誰よりも知っているのに、笑顔を絶やさず明るく振る舞っている。

この温もりの下に“死への恐怖”を隠している。

「……ねぇ、正人。私を忘れないでね?あなたがこの先、誰かを愛しても……心の片隅にでもいいから、私との思い出をしまっててほしい……」


「忘れるもんか……絶対忘れないよ……」


俺は“現実”の重さに押し潰されそうだった。

でも彼女の気丈さが俺を救ってくれる。

俺ってなんて情けないんだろう。

俺の方が彼女の支えにならなきゃいけないのに、彼女の笑顔に救われている。

……眩しい笑顔。

何度、絶望から救ってくれたんだろう。

弱い俺を救ってくれたんだろう。

その笑顔のため、精一杯思い出を作ろう。

“忘れない事”、それが彼女の願いなのだから……。

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