第二話『回想〜絶望と覚悟〜』
……覚えてる。
人間の記憶力とは侮れない。
いや、忘れたかったわけじゃない。
しかし忘れられたら気分は楽だったろうに、そんな気持ちがあったのも事実だった。花を添えた。線香もあげた。あとは祈るだけ。
(……俺、“約束”守れたよな?)
俺は手を合わせる。彼女に今までの出来事を報告しよう。
(……俺な、あれからしばらくして別の奴と付き合ったんだ。
今の奥さんなんだけどな。
子供もいるんだ。
もうすぐ十才になるんだ。
お前に言われた様に、俺は自分の幸せを見つけたぞ……)
何故か、涙が溢れ出した。
止めようにもどんどん溢れていく。悲しさだけがこみ上げてくる。
こんなに泣いたのは“あの日”以来だ。
彼女を失った日。あの日は今でも忘れない……。
……高校卒業まであと三ヶ月。
そんな未来の希望に満ち溢れた時期に彼女は病に倒れた。
数年前から現れた新種の病。
ウィルス性の病気だが感染力を持たない、そして現代医学ではどうする事もできない病に彼女は感染した。
日に日に弱りゆく彼女は、目に見えて痩せ細り生命力を奪われていった。病室では点滴を打つ彼女がいた。窓の外を眺め、空を見上げていた。
「……私ね、卒業まで生きてられないって。先生に聞いたの」
「……えっ!?」
なんで冷静に言えるんだ?俺は衝撃を受けた。
「……びっくりした?でも本当の事よ。私の病気、今の医学じゃどうしよもないんだって……」
彼女は俺の顔を見た。その目にはみるみるうちに涙が溢れる。
「……怖いよぉ……死ぬのが、じゃないよ。もちろん死ぬのも怖いけど、それ以上に忘れられるのが怖いよぉ……」
俺は彼女の手を握る事しかできなかった。彼女も握り返してくる。
「……俺は、忘れないよ……」
俺は涙が出るのを見せじと彼女を抱きしめた。
彼女の暖かさが、心地よかった。
「……こうしてると、安心する……」
彼女はそう言って俺に身を預ける。
俺は堪え切れなかった。俺は運命のイタズラを呪った。
何故、彼女じゃなきゃいけないんだ!
何故、こんな目に合わなきゃいけないんだ!
俺は悔しかった。
自分ではどうする事も出来ない。そんな無力な自分が許せなかった。
彼女を失う事。
考えられない。
考えるはずもない!これからも二人は一緒……そう思ってた。
彼女以上に愛せる人なんていやしない。俺はどうすればいいんだ?
時は無情に過ぎていく!クリスマスさえも満足に祝えない!正月さえも祝えない!
彼女は日に日に衰えていく。
もはや絶望的だった。
俺は彼女を見てるだけで辛くてたまらなかった。
しかし、それ以上に彼女は辛かったと思う。
ある日、とうとう俺は覚悟を決めた。
“その時”が来るまで精一杯思い出を作ろう!彼女を一生忘れない様に胸に刻み込もうと誓ったのだ。




