表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第二話『回想〜絶望と覚悟〜』

……覚えてる。

人間の記憶力とは侮れない。

いや、忘れたかったわけじゃない。

しかし忘れられたら気分は楽だったろうに、そんな気持ちがあったのも事実だった。花を添えた。線香もあげた。あとは祈るだけ。

(……俺、“約束”守れたよな?)

俺は手を合わせる。彼女に今までの出来事を報告しよう。

(……俺な、あれからしばらくして別の奴と付き合ったんだ。

今の奥さんなんだけどな。

子供もいるんだ。

もうすぐ十才になるんだ。

お前に言われた様に、俺は自分の幸せを見つけたぞ……)

何故か、涙が溢れ出した。

止めようにもどんどん溢れていく。悲しさだけがこみ上げてくる。

こんなに泣いたのは“あの日”以来だ。

彼女を失った日。あの日は今でも忘れない……。


……高校卒業まであと三ヶ月。

そんな未来の希望に満ち溢れた時期に彼女は病に倒れた。

数年前から現れた新種の病。

ウィルス性の病気だが感染力を持たない、そして現代医学ではどうする事もできない病に彼女は感染した。

日に日に弱りゆく彼女は、目に見えて痩せ細り生命力を奪われていった。病室では点滴を打つ彼女がいた。窓の外を眺め、空を見上げていた。

「……私ね、卒業まで生きてられないって。先生に聞いたの」


「……えっ!?」


なんで冷静に言えるんだ?俺は衝撃を受けた。

「……びっくりした?でも本当の事よ。私の病気、今の医学じゃどうしよもないんだって……」


彼女は俺の顔を見た。その目にはみるみるうちに涙が溢れる。

「……怖いよぉ……死ぬのが、じゃないよ。もちろん死ぬのも怖いけど、それ以上に忘れられるのが怖いよぉ……」


俺は彼女の手を握る事しかできなかった。彼女も握り返してくる。

「……俺は、忘れないよ……」


俺は涙が出るのを見せじと彼女を抱きしめた。

彼女の暖かさが、心地よかった。

「……こうしてると、安心する……」


彼女はそう言って俺に身を預ける。

俺は堪え切れなかった。俺は運命のイタズラを呪った。

何故、彼女じゃなきゃいけないんだ!

何故、こんな目に合わなきゃいけないんだ!

俺は悔しかった。

自分ではどうする事も出来ない。そんな無力な自分が許せなかった。

彼女を失う事。

考えられない。

考えるはずもない!これからも二人は一緒……そう思ってた。

彼女以上に愛せる人なんていやしない。俺はどうすればいいんだ?

時は無情に過ぎていく!クリスマスさえも満足に祝えない!正月さえも祝えない!

彼女は日に日に衰えていく。

もはや絶望的だった。

俺は彼女を見てるだけで辛くてたまらなかった。

しかし、それ以上に彼女は辛かったと思う。

ある日、とうとう俺は覚悟を決めた。

“その時”が来るまで精一杯思い出を作ろう!彼女を一生忘れない様に胸に刻み込もうと誓ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ