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第一話『夏の日差し』

……暑い。この村は不便な土地だとつくづく思う。約十数年ぶりにこの村へ来たが、あの日の“約束”さえ無ければ、おそらく一生来る事はなかっただろう。

「……年だなぁ、この階段がこんなに辛いなんて……」

この村はおかしい。

長い階段の先に、山に墓地があるなんて、いくら昔からある土地だからって少し異常だぞ。

愚痴ばかりが浮かんでは消えていく。

まるで登山家の気分でひたすら階段を登る。

(……まぁ、しゃーないな。

今日は“約束”の日だ……しかし、俺もよく覚えてたなぁ)

登る!登る!登る!ただただ、ひたすら登る!四十近いおっさんの体力というものを痛感させられる。


何故、俺は登るんだ?そう、そこに山があるからだ!

(……自分で言っててつまんねぇ。


気合いが入らんなぁ。

しかし、長い階段だ……)

くだらない親父ギャグで危うく自滅しそうだった。


急な階段と容赦の無い日差しのダブルパンチでヘトヘトになりながらも、俺はこの山を制覇する事ができた。

「……やっと着いた。マジで死ぬかと思った……」

長い階段を登りきった俺は、朝早くに出発してよかったと心底思った。

昼前でこの暑さ。

ある程度予測しておいて正解だった。

この村は昔から風のある日と無い日がはっきりしていた。

その事を覚えてたのが今回の勝因だったろう。

今日は風の無い、弱い日だったのだ。

(……時間はまだあるな。

少し休んでから行こう……)今日の目的は山登りではない。

登頂の達成感で忘れるわけはなかったが念のため。

今日は“約束”を果たすために来たんだ……。

それは、古い古い口約束。

正直言って、ここ数年の間は“約束”の事などすっぱり忘れていた。

それだけ夢中で生きて来たんだと思う。

言い訳がましいがそうとしか言いようがなかった。

……あれから十数年。長い月日が経ったんだなぁ。年も取るはずだわ。

墓地の場所は変わっていない。森、いや、林の中にあるはず。

(……子供の頃は森だと思ってたんだよなぁ、この場所……)

林の中は涼しい。

風が無くても涼しさを感じる事ができた。林に入って少し歩くと墓地だ。

(……ここまで来たんだ。覚悟を決めるか)

俺は疲れた体に鞭打って林に入って行った。

林の中でも日差しに照らされた場所に、それはあった……。小さな墓が目の前にあった。

遠い昔に恋した人。

死ぬまで彼女以上に愛せる人はいない、と俺は思っていた。

それほど彼女の事を大切に想っていた。

あの日から止まった時間。

彼女の時間は止まっている。俺は彼女の好きだった花を添えた。

……ひまわり。

彼女もひまわりみたいな人だった。

十数年経って久しぶりに彼女に対面した俺は、彼女の事を思い出した。

もう、とっくに忘れてると思ってたのに。

人間ってなかなか思い出を忘れられない生き物なんだなぁ、俺は嬉しいと思った反面悲しかった……。

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